『旧市町村日誌』34 再スタート 文・写真 仁科勝介(かつお)
2週間ほど旅を休むにあたって、スーパーカブをどこかに停める必要があります。このとき巡っていたのは熊本県で、飛行機と新幹線なら新幹線で移動した方が良かったので、熊本駅周辺の駐輪場を探しました。でも、熊本市街地の駐輪場は軒並み7日間しか駐輪できないルールだと分かって、“知り合いの方の知り合い”を頼りに、空き地のスペースを借りて駐輪させてもらったのでした。旅の中断で一番考えるのは、カブの駐輪のこと。知らない土地だし、たかが駐輪でもむずかしい。今回、駐輪の許可を最終的に出してくださった方とは、結果的に一度もお会いしないまま、電話やショートメッセージだけでやり取りをしました。それでも旅を助けてくださって、ありがたいなあと思うばかりです。
そして、先日から旅を再スタートし、熊本県から鹿児島県にやってきました。3月1日に天草市の牛深港から、フェリーで鹿児島県の長島町へ上陸。ふと気づいたのは、「ちょうど1年前の3月1日に、東京を離れたのだったなあ」ということでした。3年弱過ごした東京の部屋も不思議な因縁づくしで、大学の親友の隣室に住むことができたし、ぼくが退去した今は、後輩が住んでいます。この巡り合わせのキーパーソンは大家さんで、大家さんの采配があったからこそ幸運が続いたように思います。大家さんはお金に執着がなくて(あるはずだけれど、ぼくと話をするときは無頓着なフリをしていた気がする)、人間同士の縁を大切にしてくださった。後輩へのバトンタッチも、退去日やら入居日やら、君たちの裁量で自由にやってくれって。ふつうはそんなこと言えないよなあ。あの大家さんは、ただのおじいさんじゃなかったなあと今でも顔が浮かびます。憧れるべき大家さんでした。
というわけで、ちょうど1年前の3月はいよいよ東京を離れて、旅の準備に追われていた頃。当時から長い旅になることはわかっていたけれど、1年後の自分がどこにいるかなんて、まったく想像ができなかったわけです。だから今、鹿児島県にいる自分に驚くし、無事に健康で過ごせていることが、何よりほんとうにありがたいです。
「5年後の自分が、どこで何してるかなんてわからないだろう?」と言うけれど、1年後も同じ。だから、これからまた1年後、自分がどこで何をしているかなんて、やっぱりさっぱりわからないと言えます。
今は鹿児島県に入ったばかりですが、おっとりした土地だなあと感じます。小学生が警戒心を持たずに話しかけてくれたり、地元のおばあちゃんたちも明るく声をかけてくれたり。長島町に住む知り合いの方にもお会いして、少しまちを案内してもらったのですが、その方も積極的に道ゆく人と会話されるので驚きました。「あの人、知り合いですか?」と聞くと、「いや、全然知らないです」って感じで。でも、人と人が自然に関わり合う関係性が、人間の心を自然にひらいてくれるようにも思います。
仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。
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