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『旧市町村日誌』5 文・写真 仁科勝介(かつお)

5/12晴れ時々曇り。

 前日無事に、神奈川県の旅が終わった。やはり、今回の神奈川県は少し勇気が必要だった。川崎市と相模原市と横浜市、この大きな3つの都市の中を巡るわけで、交通量も多いから。最後まで巡れたことで、まずはホッとしている。それにしても、今まで抱いてきた大都市へのイメージと、今感じているイメージは、ずいぶん変わった。一般的に、人口が減少している昨今、都市部への人口流入が進んでいると言われている。すると、地方においては疲弊していく街と元気な街の差がますます開いていく。それは悲しいよなあと思っていた。

 

けれど、今回神奈川県の政令指定都市を巡っていて、やっぱり、子どもの数がとても多い。そして、それはとても美しく見えた。放課後に、仲良く遊んでいる小学生たちの姿に、いったい何の罪があるだろう。昭和の団地の暮らしの写真を見ていると賑やかさがあるけれど、その現代版を見ているような気もした。子どもがのびのびと幸せであることが、一番大切に感じられる。

 

神田祭の初日、神田大喜靴店さんと、神田稲荷湯さんに伺った。大喜靴店では着物を着ていたお父さんと話をした。そのお父さんの、目の輝きが最高だった。1ヶ月前に仕事の休みを取って、今日を待ち遠しくしていたと。すでに、神田で感じられる雰囲気が、ぼくが知っていた神田とは違う。夕方からは稲荷湯の鎌倉町会さんでお神輿を見た。掛け声が、笛の音が、お手がしらのリズムが、拍子木の余韻が、すごい。江戸っ子のちゃきちゃきって、マジなんだ。と、素人のような感想を持ってしまうほど、かっこいいし、勢いがすごい。途中で半纏をお貸しいただいた。稲荷湯さんでは、神輿がやって来るのを正面から見た。なんだかもう、夢が叶った気持ちだ。

 

5/13 朝、土砂降り。昼、雨。夕方、小雨。

 夕方までにいくつか行きたい場所へ寄って、最後に神田へ向かった。錦町三丁目さんに伺ったら、知っている方もいるかもしれないと思って、実際に、知っている方も多くいて、半纏姿がカッコよかった。最後の休憩のときに、半纏を借りて御神輿を担がせてもらった。担いだ時、見える景色が全然違った。視点がこうも違うのか。そして、エッサ、ホッサ、と、声をわんさか出した。トランス状態になった。重い。きつい。なのに、なんだ、この、一体感。これが、祭り…。

 

5/14午前曇り時々晴れ、午後、曇り時々雨。

 いよいよ神田祭の日曜日。神田神社への宮入りというビッグイベントがある。稲荷湯さんの半纏を貸していただき、宮入りからお神輿を安置する神酒所(みきしょ)まで、一緒に向かった。外からの参加だし、多少心細さはあったけれど、それはもう仕方のないこと。むしろ、その中でも楽しもうと思った。

 

金髪で見た目は少し怖いけれど、周りに連れの方がいるようにも見えず、ひとりで淡々と、それもすぐに交代せずに神輿を担いでいる男性がいて、すごくかっこいいと思った。最後の休憩時間でその方に声をかけてみたら、今は神田で働いているけれど、岸和田のだんじりをやっていたと教えてくれた。話のトーンは物静かな優しさがあり、今日もこの後仕事に行くって。一人でもこういうスタンスで向き合って参加している方がいるのだなあ。

 

最後、神酒所はビルに囲まれているから、声が共鳴しあって、ドームの中のようにこだまし、それがさらにボルテージを上げていく。到着したときのそれはもう最高潮という言葉で足りず、すげえと思わずにはいられなかった。

 

楽しかった。人が、今を、生きていたよ。

 

 

5/16火、晴れ

 旅を再開した。都内から千葉県へ。すでに、深夜1時を迎えようとしているので、この時間帯に日記を書こうとすると、眠いということばかりが頭に流れる。明日もほんとうは4時ぐらいに出たかったのだが、前回も似たような日記を書いていて、それを振り返って読んだとき、「無茶な」と自分でも思った。とはいえ、旅以外にやらないといけない仕事がいくつかあるから、それはどうしようもないものである。来週以降は、撮影の仕事がふたつある。その間、旅はストップする。果たしてどうなるだろうか。



仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。

HP|https://katsusukenishina.com
Twitter/Instagram @katsuo247


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