『旧市町村日誌』 61 大阪の旅 文・写真 仁科勝介(かつお)
1月15日(水)
とにもかくにも、「無理は禁物」をモットーに、大阪までやってきた。大阪市の24区を巡るためだ。同じく政令指定都市の堺市も巡れたらよかったけれど、スケジュール的にむずかしく、今回は大阪市に絞ることにした。
梅田駅を抜け出して、知らない街の数々へ出てみると、いろんな日常が広がっている。駅と直結したアーケード街、郊外のように広い公園、中心部でも老若男女が無邪気に遊ぶ休日の公園、ビルの地下のレストラン街の活気、おっちゃんの損得勘定ではない親切、おばちゃんのカラッとした明るさ、水辺の穏やかな気配、住宅街に佇む由緒ある神社仏閣、エンターテイメントな観光地……。久しぶりに全身で、新しい景色に出会って、一日一日がものすごく長く感じた。この長さは、小学生の夏休みを思い出す。
旅の合間に神戸市立三宮図書館へ、写真展の設営にも伺った。三宮図書館は、建物の外観も内装もとても素敵で、図書館のみなさんもあたたかく、二週間の展示の機会をいただけてほんとうにうれしい。少しでも展示を見てくださる方がいるとさらにうれしいし、何より三宮図書館へ訪れたことがない方は、ぜひ訪問をおすすめしたい。
また、大阪のお店である方と話をしていた際に、「自分のやりたいことをやること」と、「自分本位」についての話題になった。会話を振り返ってみて、そんな話だったんじゃないかなあと思っているわけだけれど、自分がモヤモヤと長く考えていたことにつながるかもしれないと思って、話の後もずっと考えている。
その方はぼくに、「自分のやりたいことはやった方がいい」とも、「自分のことしか考えていない人は苦手だ」とも仰った。すなわち、自分のやりたいことはやった方がいいし、でも、自分のことしか考えていない人は苦手だ、ということである。
ぼくは、自分のやりたいことにできるだけ従いたいと思って過ごしてきたけれど、そのときに遭遇する分岐路で、「自分のやりたいことがあるから」と、自分本位な方の道を選んだとき、手元に残る感情が理屈っぽくて、ちょっと冷たくて、自分がつまらなく感じていた。
そして、しばらく考えてみて、やっぱり自分のやりたいことは、どんどんやっていくことだ。でも、その目的や、思い描いているものに、自分本位なものが幅を利かせていたら、やっぱり嫌だ。たとえば損得を求めたり、こびを売ったり。もちろん仕事やプライベート、状況に応じて話も変わるだろうし、自分の考えがすべて正しいとは思わないので、堂々巡りに戻る可能性も大いにあるけれど、とにかく、自分のやりたいことに取り組む中で、それでも、自分本位な感情をポイッと捨てることは、すごく気持ちのいいことだと思った。
その道の先では、身を乗り出して富や名誉や、何者かみたいなものを求める必要がないし、他人から見てカッコ悪くても、恥をかいても構わない。自分のやりたいことであり、自分本位ではない選択には、光も熱もある。やっぱりその方が好きだ。選択が大きくても小さくても、その根っこが素直にあるといいな、と感じている。大阪の旅。
仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。