『旧市町村日誌』15 気仙沼にいる間に梅雨も明けて 文・写真 仁科勝介(かつお)
7/22(土)晴れ
珈琲樂(うた)のマスターが室根山へ連れて行ってくれた。一人で巡った日は雨だったから、展望できるなんて夢のよう。でこぼことした盆地の地形に緑と集落が広がり、日の当たった場所は特に輝いて見えた。
気仙沼まで送ってくださって、いざ“かつお祭り”へ。土曜日だけ開いている喫茶店かもしか堂のオーナーは、一週間前の神社の清掃プロジェクトに参加していた方だった! そうやってつながっていくのだなあ……。
昼には大所帯で今朝水揚げされたかつおの定食を食べた。信じられないぐらい美味しかった。そして、藁焼きを食べたあとに、海へ。子どもたちがあまりに気持ち良さげで、ぼくも海に飛び込んだ。今年最初で最後の海かもしれない……。
夜はつなかんでバックヤードのお手伝い。キッチンとホール、いつぶりだろうか。がむしゃらに動くやりがいがあった。午前1時まで、釣り好きのおじさん、料理番のふみちゃん、つなかんの映画を見て来たKさんと過ごして、就寝。
7/23(日)晴れ
朝は朝食のお手伝い。一代さんは夜も朝もお客さんと接する。ものすごいエネルギーだし、必ず全力な姿に、心を打たれる。つなかんの映画を見て来たというKさんと、午前中一緒に気仙沼を巡った。まさか、自分が案内側になるなんて。
そして、岸田奈美さんとも合流をして、こうやさんとも一緒にランチをまるきで。それからは御崎神社に行ったけれど、よかったなあ。奈美さんは相変わらずパワフルで、ボケもツッコミも喋りもメモも早い。
夜も料理番のふみちゃんに怒られながら、裏のお手伝い。集中して、先を読んで、それでも失敗したりして。ふみちゃんにうわべは通用しない。そういう人と過ごせることが、とても貴重で嬉しかった。最後には緑ちゃんと会えた。緑ちゃんは大学で学部も同じだった同級生で、5年ぶりに会えたのだった。自分の波長に会う生き方。美しい。
7/24(月)晴れ
朝、こうやさんが唐桑御殿のTシャツをくれた。嬉しいなあ。どこまでも、清々しい方だ。そして、奈美さんと途中でお別れをして、昼にはプリズムの絶品カレーをご馳走になって、電車で盛岡へ戻った。
また、ここからが大切だ。そのことを忘るるなかれ。気仙沼にいて、いつの間にか梅雨も明けたね。
7/28(金)晴れ
4日分、日記を書きそこねた。その間に、何があったのか。火曜日は、遠野に行った日だ。旧宮守村と遠野市を巡って、午後からは今まで何度もお世話になっているBrewGoodの田村さんたちと、撮影に出かけた。撮影は楽しいが、体力も使う。それで、夜は日記も書かずに寝てしまったわけだ。
遠野ユースホステルには、合宿免許で来ている二十歳前後のキラキラした女の子たちがいた。特に元気な三人組の子たちは、それぞれ違う地元から来ているので、ここで仲良くなったらしい。たしかに合宿免許って、自分は経験がないけれど、青春のきらめきを感じる。普段よりもテンションが高いのかはわからないけれど、「旅のお兄さん」と気さくに話しかけてくれた。
水曜日、同じく遠野にいて、ハードには動いていないのに、どうして日記を書かなかったんだろうね。ちょっとした怠惰かもしれない。
木曜日は宮古市まで向かった。ひとことに宮古市と言っても、すごく広い。内陸の旧市町村も2つある。早朝の山越は涼しくて、逆にこれだけの気温差があるということは、冬は覚悟しなきゃいけない寒さになるのだろう。どんな山越えでもだいたい当てはまる。
そして、浄土ヶ浜の海は抜群だった。透きとおる海に、険しくも威厳ある岩石が先を尖らせ連なっていて、その姿は異世界を思わせた。高校生ぐらいの日焼けした男の子たちが揃って遊覧船の手伝いをしていて、手伝い以外の時間は海で遊んでいるのではないかという様子もまた良かった。誰もが息を呑むであろうこの海で泳げたら、それに仲間もいたら、最高だよなって。
ゲストハウス3710にも5年ぶりに泊まれた。オーナーさんも変わらずいらっしゃるのだなあ。もっと話を聞けば良かった。ああ、もったいないことをしてしまった。というのも、1日中考えごとをしていた。時間に余裕があるときは、考えごとをしてしまうものである。いいことでもあり、悪いことでもある。今回はタイミング的なものもあった。まずは信じることからだ。そして、結論が出たら、スパッと無駄な考えはやめてしまうこと。
最後、今日について。宮古市から盛岡市に向かう長い道中、ガソリンを入れ忘れて、確実にガス欠になると思った。やられたなあと、カブが止まってからどうしようかとばかり考えていたが、小さなガソリンスタンドがついに見えて、「営業中」と書かれた看板があって、心底嬉しかった。左耳に大1つ、小3つぐらいのピアスをしたお兄さんが、ガソリンを入れてくれた。コワモテだけど、声も仕草も優しい人だった。
旧玉山村は、盛岡市だけれど、落ち着いた時間が流れていた。そのあと訪れたBOOKNERDでは本を一冊買った。でも、オーナーさんには知り合いであろう人物(ぼくの友人)の名前を先に出して自己紹介するという、いちばん中途半端でカッコ悪い声の掛け方をしてしまった。盛岡という土地の気配に、ちょっとのまれてしまっている。すなわち、自分が弱いだけ。もう少し自分に自信ぐらい、持てばいいのに。
でも、そうなるということは、まだまだ未完成だというわけだけれど、自分なりの“ヴォイス”のようなものを獲得するまで、あともうひと踏ん張りだから。そこに尽きる。もちろん道は続くけれど、あともう一息。その一息を信じる勇気だと思うんだよな。ブレている自分の状態はすごく嫌だけれど、「いいねー、ブレてるねー」と、もうひとつ外からニンマリしている自分もいる。「このままじゃ、このままだと思った」を、繰り返していく。
仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。