『旧市町村日誌』30雨が降るまで 文・写真 仁科勝介(かつお)
12/4(月)晴れ
長い1日だった。柳川市の北原白秋生家・記念館で、北原白秋の生涯に触れる。これまでの旅先でも、詩人や歌人の展示などを見ていると、北原白秋の名前が出てくることは、少なくなかったように思う。誰かが語り継ごうとしている人物の生涯を追うことは、必ずといっていいほど面白い。しかし、偉人とはこうなのだ、みたいなパターンはない。どちらかといえば、宿命を受け入れ、じぶんを信じ、運命に身を任せている。
12/5(火)曇りのち晴れ
4年ぶりに壱岐島を目指した。博多港の受付窓口に「満車」の貼り紙があって狼狽したが、二輪車なら大丈夫とのことでひと安心。
2時間半の船旅を終えて壱岐の土地を踏むと、美しい光が島を包んでいた。有名な観光スポット「猿岩」は、猿にそっくりの顔が見えて面白かったし、「筒城浜」に行くと真っ白な砂浜と凪いだ波が、西日を浴びていた。それに誰もいなかった。目を閉じ、大きく息を吐く。
12/7(木)晴れ
昨日の午後に対馬へ到着。夜は雷雨と突風でヒヤヒヤした。しかし、朝には雲ひとつない青空が広がっていた。
出発後にルートを変えて、金田城跡を目指す。金田城跡は登山に少なくとも2時間掛かるから、省略すべきじゃないかと最初は判断していたけれど、雲ひとつないこの天気の日に行かなかったら、後悔すると思ったのだった。
駐車場までの細い道には落石や倒木があって、昨晩の嵐の後、おそらくじぶんが今日最初の登山者だと察する。ただ、登山道自体は問題なく進むことができた。聞こえるのは落ち葉を踏む足音、転がっていく石音、鳥のさえずりばかり。
そして、山頂で見えた景色は見事だった。深い青色の海と初冬らしい山並み、リアス式海岸の入り組んだ地形が、視界のすべてを占めて、目のピントが合っていない右端だとか左端の視界すらも、絶景なのであった。誰に言うわけでもなく、美しいなあと、言葉がこぼれた。
12/8(金)晴れ
対馬から博多へ戻る。午後は福岡市を少し巡ったけれど、信号が多くてなかなか進まず。夜は久山町に住んでいる、先輩ご夫婦のお家へ。今年入籍されたばかりのご夫婦だ。お二方とも面識があるものの、お会いするのは数年ぶりだった。会話の節々から、つつましさの中に愛があり……。
12/10(日)晴れ
たぶん、すごく暖かい1日だったので、階段をのぼったり、あたたかいうどんを食べたりすると、大汗をかいたのだった。
糸島では中心街でマルシェに出会い、住んでいる人たちののびやかな雰囲気を感じる。
唐津の山間部である旧七山村に行くと、産業まつりが開かれていて、大賑わいだった。このあとに訪れた唐津市街地も、海沿いの素晴らしい景色が広がっていたわけだけど、それだけが唐津ではないと触れられただけでも、この旅を続けている意味を感じられた。
12/12(火)雨
11月25日に北九州市に上陸して、12月10日まで一度も休まなかったので、11日と12日が久しぶりの雨で、助かった。唐津市にいる大学の友人のご実家に泊まらせてもらう。
次の週末からは本格的な冬がやってくる。冷えるぞー。相当寒いと思う。今のうちから「寒くなるからな、寒くなんねんぞ」と意識を高めておいた方がいい。
12/13(水)晴れ
唐津の呼子や鎮西、陸路で渡ることのできる松浦の鷹島や福島を巡る。海は北風が強く、波が真っ白になって飛沫を上げていた。名護屋城を訪れ、城跡の大きさに驚くとともに、豊臣秀吉の天下統一に大きく影響していた歴史を知る。歴史に触れると、どうして高校で日本史を選択しなかったのかと思うわけだけれど(地理選択だったから)、結局、フィールドワーク型の学習をしている。ずいぶんお金が掛かってしまっているけれど。
12/14(木)曇りのち雨
16時ごろから雨予報だったので、それに間に合えば良しと思っていたが、12時から本降りの雨になるなんて。いじわるである。流石に旅を中断するわけにもいかず、合羽を着て巡った。15時過ぎ、下校している中高生の多くがずぶ濡れであった。傘や合羽を持たずに登校していたようだ。そうだよね、今日は天気予報のせいだよ。細い道で、ずぶ濡れの男子三人組とすれ違う。お互いになぐさめ合うような眼差しで目が合った。男子のひとりが「寒いっす!」と挨拶をしてくれた。寒いよね、風邪引くなよー!
仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。
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