『旧市町村日誌』43 敬愛する作家さんと会う 文・写真 仁科勝介(かつお)
6月21日(金)
敬愛する作家さんと会った。面識は何度かあったけれど、一対一で会うのは初めて。忙しいなかわざわざ時間をつくってくださっていた。バタバタしているけれど、この日ならあけられそうですと。
午後、待ち合わせの仕事場へ伺う。市街地から離れた閑静な土地に、その仕事場はあった。古い佇まいの玄関に足を踏み入れ、部屋に入ると仄かなお香がかおり、レコードからはバッハが流れていた。シンプルで置かれたモノが少なく、切り火されたような引き締まった空間だった。テーブルを挟み、窓越しの緑が見える席に座る。そして、お茶を淹れてもらい、さあ、お話ししましょうと。いざ目が合うと、逆光なのにその方が眩しかった。
いろんな話をした。旅のこと、昔話、知り合いの話、これからの話。この方の持つ胆力に圧倒されて、弱い言葉もいくつか出てきて反省した。まだまだこんな自分もいる。要は、たましいの器量の問題だと思う。この作家さんのたましいは伸びやかで、深くて、無邪気で、大好きだ。
男性によく当てはまる傾向らしいんだけど……と切り出されたことも、見事に当てはまっていて、つくづく反省した。でね、私思うの。そんなこと考えていたら、つまんなくない? って。そう、人生の中で今自分がどんな立ち位置にいるか、そんなことを考えていたら、つまんないに決まっている。
旅を終えてやりたいこともあった。その話をすると、それ、今やらないの? と言われたことも、かなりショッキングだった。でも……と言葉をつなぎ合わせようとすればするほど、しっくりこない。だから、自分の常識を全部崩すことにした。どこまでできるかわからないけれど、やりたいことに対して、言い訳をせずにベストを尽くすこと。あきらめずにトライすること。とにかく今を大切に生き切ることだ。
帰り際、今日は夏至でしょう? 作ったの。と両手ほどの大きさの茅の輪をもらった。安全と無病息災ね、と。そんなサプライズがあるなんて! ボロボロにして良いと言われたけど、したくない。でも、ボロボロになりそうな気がするし、そうなっても、旅が終わるまで持っていく。
19時過ぎ、小さな女の子たちがフラダンスを踊っている砂浜の横で、夏至の夕日を眺めた。今までの夏至と違って寂しさは湧いてこず、今日、何かが動き出した気がすると、はじまりの気配を感じながら。
仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。