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【短編集】のどに骨、胸にとげ/いつつめのおはなし 「同棲日記」 


四月 一日
 リョータと映画に行った帰り、一緒に住もうと言われた。
 てっきりエイプリルフールだと思って笑って流していたら、本気なのにとスネられた。何で、よりにもよって、こんな大事な話を今日するんだろう。
 まあ、リョータらしいけど。
 うちの返事は、もちろんOK!!
 ゆくゆくは結婚かな。なんて、気が早い?
 でも、リョータの所はパパもママも優しそうな感じの人だし、二人居る妹ちゃん達は齢が離れててカワイイし、結婚ってなっても上手くいくと思うんだ。


四月 十四日
 新生活が始まった。
 リョータが住んでいる部屋に、うちが引っ越した形だ。
 リョータは、「必要な物は全部そろってるし、引っ越の準備もすぐ終わるっしょ」なんて言ってたけど、うちの物を置くスペースが全く無かったので、先週二人でがんばって片付けをした。
 今日からここが二人の愛の巣かぁ。
 すっごく幸せだし嬉しいけど、今までずっと自分の実家だったから、家事とか色々不安もある。
 でも、うちとリョータなら、きっと大丈夫。


四月 十五日
 昨日の夜、同棲初日なのもあってエッチが盛り上がり過ぎて、壁を叩かれてしまった。
 めっちゃハズカシイ。顔を合わせた時に、謝った方がいいのかな?
 でも、謝られても気まずいよね?
 今夜はバイト終わりにリョータと待ち合わせて、ファミレスで夕ご飯を食べてから帰宅した。
 同じ家に帰るのって、いいなって思った。
 幸せ。


五月 一日
 うちは料理が全然できないから、外食が多めになってしまう。それは、リョータにも申し訳ないなと思ってる。
 でも、それ以外の事は全部うちがやって当たり前って思ってるの、マジで何なの?
 そりゃ、リョータは外仕事で疲れてるのは分かるけど、こっちだってバイトしてるし。
 うちがリョータの分を洗濯しても、山盛りの灰皿片付けても、溜め込んでるペットボトルを捨てても、全然感謝の言葉が無いのが腹立つ。


五月 二日
 ちゃんと話し合いたいと思ってたら、何と、リョータの方から謝ってくれた。それも、ケーキを買ってきてくれて、最近うちに甘えすぎてた、ゴメンって。
 うちも、慣れない環境でストレスが溜まってたんだと思う。こっちもイライラしてごめんねって謝った。
 一緒に生活してたら、ケンカだって沢山すると思う。でも、こうやって仲直りしていけばいいんだよね。
 今日は、改めてリョータの事を大好きだなって思った。


五月 十日
 今日はバイトが休みで、一人でゴロゴロしてたら、何とリョータママにお茶に誘われた。
 二人きりで話すのは初めてだからドキドキしたけど、こんな風にうちと話をしたいと思ってくれるのは、やっぱりリョータとうちの未来の事を意識してるのかな?
 めっちゃキンチョーしたけど、リョータママは優しかったし、またお話しましょうねって言ってもらえた。


五月 十四日
 リョータと一緒に住んで、一カ月。記念日だね。
 そろそろうちも料理をやらないといけないと思って、リョータの好きなハンバーグにチャレンジした。
 初めてだから、フライパンまでコゲついちゃった。あんまり上手に出来なかったけど、リョータは美味しいって言ってくれた。
 まだ整理してなかった分の荷物の片付けをしたら、前に友達からもらった可愛いフォトフレームが出てきた。夜に二人でコンビニまで散歩して、写真をプリントしてからトイレに飾ったよ。
 料理した後、キッチンを片付けてなかったから、寝る前に洗い物しなきゃって思ってたら、いつの間にかキレイにしてくれてた。こういうの、嬉しいよね。


五月 十八日
 自分でも気付いてなかったけど、リョータの家にうちが引っ越してきた形だったからか、心のどこかに「自分はお客」みたいな気持ちがあったのかも。ここは自分の家じゃ無くって、あくまでうちは他人だって感じ?
 トイレに写真を飾ったら、うちの家でもあるんだなって実感がわいてきて、何だか嬉しい。この家を好きになってきたな。
 キッチンの調理器具がけっこうボロっちいから、少しずつ買い換えていこうと思う。
 今日は早速、包丁とお玉を新しくした。黒ネコの絵がついててカワイイの。
 調理器具ってけっこう高いから一度にそろえるのは無理だけど、フライパンとかナベは全部ピンクにしたいな。今あるフライパン、何か古臭くてやたらと重いんだよね。
 ワクワクする。


五月 二十二日
 今日は、何と! 家族が増えた。
 昨日、親友のアオイから、親せきが飼ってるミニウサギが沢山子どもを産んだから誰かいらないかって話が来て、写真を見たらすっごく可愛くて。
 ダメモトでリョータに聞いたら、まさかの即OK。
 嬉しい!!
 名前は、ミミ。うさぎならミミに決まってるだろうって、リョータがつけた。白ウサギだと思ってたけど、アオイが言うには「この子はホワイトじゃ無くてパール」らしい。何かカッコいいかも。
 今日からよろしくね、ミミ。


五月 二十五日
 うさぎを飼った事が無かったから知らなかったけど、ミミ、思ってたよりなついてくれないし、部屋中にオシッコもうんちもする。まだ子ウサギだからかな?
 色んな人の動画を見て、飼い方を勉強してる。
 大変だけど、ミミのためにがんばろっと。

 

六月 二日
 ちょっと、しんどい……。
 最近、ミミが夜中にずっとケージをかじってて、うるさくて眠れない。リョータは一回寝たら朝まで起きないタイプだから平気みたいだけど。
 昨日の夜は特にうるさくて全然寝れなくて、今日はバイトが休みだったから二度寝をした。
 そしたら何と、リョータパパとママが急に来て、うち、パジャマですっぴんだったのに、今から話がしたいとか言われてびっくりした。
 昨日あんまり寝れてないからって断ったら、ママは体調を心配してくれたけど、パパは何かちょっと怒ってる感じだった。怒りたいのはこっちの方だって。
 何なの?


六月 三日
 リョータパパからリョータの方に連絡が来て、今度の土曜に話し合いをする事になった。うちはその日は夕方までバイトだよって言ったけど、夜でいいからって。
 昨日の感じからしたら、リョータパパは何かモンクがあるんだろうけど、話し合いって何だろう。うちらが一緒に住んでる事で、何か言われるのかな。
 リョータもうちも、もう大人なんだから、親が恋愛に口を出すなんておかしいよね。


六月 七日
 やっぱりリョータパパは、うちらが一緒に住んでる事が気に入らないみたい。だらしないとか、常識が無いとか、色々言われた。
 何でそんな事言われないといけないの? すごい悔しい。
 でもリョータの大事なパパだし、真面目なタイプの親なんだろうなって我慢して聞いてたのに、このまま一緒に住みたいならリョータと私の二人で合わせて毎月八万円払うようにって。おかしいよね??
 最初、言ってる意味が分からなくて、結婚費用とか考えてそのくらい貯金しなさいって話なのかと思ったら、リョータのパパとママに毎月お金を払えって事らしい。
 何を言ってるんだろう? うちの月のバイト代くらいだよ? 無理だし、そもそもそんな必要無いでしょ。
 もしかしてリョータの家はお金に困ってるのかなと思って、リョータに色々聞いたら、別に借金とかは無いみたい。でも、古い一軒家だから持ち家だと思ってたら、借家なんだって。そこはちょっと意外だった。
 とにかく、うちは何と言われてもリョータとは離れないから。


六月 十日
 またリョータママから二人きりでお茶しようって言われて、昼間にお茶した。
 気が重かったけど、リョータママの方から、この間のリョータパパの言い方はちょっときつかったよねって謝ってくれたから、ママは敵じゃないんだなってホッとしてたのに、ママからもまたお金の話をされた。
 普通、彼氏の親にお金なんて渡さないよね?
 リョータの親だから悪く言いたくないけど、結婚しないで一緒に住んでるうちらの事を非常識とかいうクセに、どう考えても非常識なのはリョータの親の方だよ。
 イライラした気分のまま二人の部屋に帰ったら、ミミが布団にゲリしてて、何だかすごく疲れた。


六月 十七日
 ミミのゲリ、エサを変えてみたり色々試してみたんだけど治らなくて、動物病院に連れて行ったら寄生虫が居るって言われて、一万円近くかかった。
 寄生虫とかショックだし、何だかミミの事まで気持ち悪く感じる。
 ミミのせいで部屋中くさいし、壁紙をかじられてあちこちボロボロだ。この前は、スマホの充電器のコードもダメにされた。夜にさわぐクセも治らない。
 しかも、うさぎは温度の変化が苦手らしいから、これから先の季節はエアコンを二十四時間つけっぱなしにしないといけないらしい。嘘でしょ。
 犬やネコならまだ分かるけど、まさか、うさぎでこんなに苦労するとは。
 うちらがこんなに困ってるのに、リョータパパは、相変わらずリョータにお金の話をしてきてるらしい。毎月、月末に払えって。
 そんなの、無視無視。関係無いって。
 息子とその恋人にたかるなんて、頭おかしいんじゃない?


六月 二十五日
 最近、イヤな事が多かったけど、リョータの友達カップルが遊びに来てくれて、夜はバーベキューをした。
 この部屋にはちょっとしたバルコニーがついてて、私のお気に入りの場所だ。少人数なら、こうやってバーベキューもできちゃう。
 ストレス発散に飲み過ぎたけど、すごく盛り上がって楽しかった!!
 でも、うちらが相当うるさかったんだろうな。二人が帰ってすぐ、壁を叩かれた。
 あーあ。せっかく楽しかったのに、何か台無し。
 夜中に騒いだならうちらが悪いけど、十時に解散したのに。こういうのって、ある程度はお互い様じゃない?
 モンクがあるなら、直接言えばいいのに。
 ムカついたから、わざと大声でエッチしてやった。


六月 三十日
 今日は、リョータパパが言ってた八万円の支払いの日だ。
 もちろん、無視するけど。
 ミミのゲリは良くなったけど、相変わらずあちこちにおしっこをするし、夜中も騒ぐ。最悪だ。


七月 一日
 昨日、支払いを無視してたら、リョータパパからリョータに「今月の終わりまでに二カ月分をまとめて払うように」と話があったらしい。
 それも、「これは最終警告だ」って、何だかオオゲサな感じで。
 何で、うちらが一緒に住んでるってだけでお金を払わないといけないの? 最終警告って、何?
 今まではとにかくムカついてたけど、あんまり話が通じないからちょっと怖くなってきた。


七月 七日
 今日は七夕。
 織姫と彦星は、遊んでばっかりだったから、織姫のパパに怒られて年に一回しか会えなくなったんだって。
 うちらはちゃんと働いてるのに、リョータパパからリフジンな事を言われてる。お金を払わないと、どうなるんだろう。別れさせられるのかな?
 うちは絶対、リョータと離れないから。
 何だか悲しくなって、夜にリョータと天の川を見に散歩に出かけた。
 二人で夜空を見上げてる途中、うちが不安になってるのが伝わったのか、リョータがぎゅって抱きしめてくれた。
 リョータ、愛してるよ。ずっと一緒に居ようね。


七月 十七日
 今日、いつものスーパーじゃなくてちょっと遠い方に行ってみたら、リョータの妹ちゃん達とばったり会ってびっくりした。
 絶対に目が合ったのに顔をそらされたから、もしかしたら、うちみたいな年上のお姉さんに対して照れちゃってるのかなぁって。もともと、言いたい事とかはっきり言えないタイプみたいだし。
 それで、妹ちゃん達はアイスを見てたから、「私が買ってあげようか?」って気さくな感じで話しかけてあげたのに、まさかの無視をされた。
 妹ちゃん達、リョータと齢が離れてるから、リョータは昔からすっごくかわいがっていたらしい。うちと住んでるから、大好きなお兄ちゃんを取られたって思ってるのかな?
 それとも、リョータパパやママから何か言われたのかな?
 何にしても、さすがに無視はショック……。


七月 二十五日
 二人とも休みでゴロゴロしてたら、まさかの、ミミがリョータのタバコを口に入れちゃって、二人とも大パニックになってたら、最悪のタイミングでリョータパパが来た。
 またしつこくお金の話をしに来たみたいなんだけど、うちらも、さすがにそれどころじゃ無いって怒って、言い合いになった。
 すぐに動物病院に連れていけとか、気軽に言わないでよね。どれだけお金がかかると思ってんの? 部外者が口出ししないでよ。
 でも、あんまりうるさいから、リョータがリョータパパの車に一緒に乗って、ミミを動物病院に連れてった。
 結局、ミミは大丈夫だったのに、また一万円近くとられた。大げさにしたリョータパパのせいじゃん。
 何がお金を払えだよ。こっちが払って欲しいくらいだ。


七月 三十日
 明日は月末。
 モメる事は分かってるから、うちらは明日から二連休にしてる。
 明日は朝から二人で出かけて、そのままラブホに泊まる予定。


八月 一日
 ひどい、ひどい、ひどい。
 こんなの、親のやる事じゃ無いよ。
 うちら、これからどうしたらいいんだろう。
 しかも、ミミが連れ去られた。ゆうかいじゃん。


八月 五日
 やっと、リョータパパに連絡がついた。
 リョータが怒りくるって「ミミを返せ」って言ってたけど、うちらに動物を飼う権利は無いとか言われたらしい。
 かわいいペット盗んでおきながら、説教とか。
 やっぱ、あの親、頭おかしいわ。
 自分の息子とその彼女にこんな事して、絶対許さない。
 ああ、とにかくこれからどうしよう。
 お金、お金がかかる。
 もうリョータパパには払わなくていいのに、そのリョータパパのせいで、八万円どころじゃ無くお金がかかるようになっちゃった。
 リョータのハタ振りの仕事は、給料は悪く無いけど、雨だと休みになったりする。うちのバイト代は月十万いかないくらい。貯金とか無いし、これからどのくらいお金がかかるか分からなくて不安だ。


・・・・・


九月 十日
 リョータパパとママと妹ちゃん達が、ミミを連れて突然出て行ったあの日から、この家はうちとリョータだけになった。
 どこに引っ越したのかも教えてくれない。
 一緒に住んでたころは、リョータママが作り置きしてるものとか、冷蔵庫の中にあるものを適当に食べてたのに、三食とも完全外食になったから、食費だけでもすごくお金がかかる。
 それに、シャンプーとか、洗剤とか、トイレットペーパーとか、全部が全部、いちいち自分達で買わないといけない。
 なのに、電気代とか、水道代とか、知らないよ。だって、今払えって言われてるのは、リョータパパ達がこの家に一緒に住んでた時に使ってた分でしょ。親なんだから、あっちが払うべき。
 電気を停められたら、スマホの充電もできないじゃん。どうしよう。
 しかも今日は、不動産の管理会社とかいう人が来て、リョータともめてた。
 ああ、リョータママと二人、リビングで仲良くお茶会をした事を思い出して、泣きそう。
 妹ちゃんに壁を叩かれた事すらなつかしいよ。
 うちの親に電話して、お金貸してってお願いしたら、四十過ぎた娘が何言ってるんだって怒られた。
 リョータの親も、うちの親も、ひどいよ。





「同棲日記」 おわり

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「のどに骨、胸にとげ」まとめ
https://note.com/futagoya/m/m0e3cc7f1d60d

ふたごやTwitter
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