
穴 ~FF内から失礼します!!~ 第二話「ハッテン場(後編)」@サートー
※この小説は、作者のTwitterでのFF(フォロー/フォロワー)関係にある方々をモデルにしたお遊びフィクション小説です。フォロワーさん達をモデルにしていますが、実際の人物象とは異なる事をご了承の上でお読み下さい。
↓前編はコチラ
【ハッテン場】
発展場(はってんば)とは、男性同性愛者の出会いの場所である。カタカナでハッテン場と表現されることもある。(Wikipediaより)
グーグルマップであらかじめ調べてはいたが、公園沿いの公道を進んでいくと、予想していたよりずっと広く感じた。
いや、実際には公園としては中堅クラスの規模なのだろうが、今からこなさなければいけないミッションを考えると途方も無く広大な空間に思える。
「あら~、球場もあるんですね。広いなぁ~。」
隣で涼芽(すずめ)さんが、まるで他人事のように呑気な口調で言った。彼女の謎の明るさのお陰で少し緊張がほぐれた。
入り口は複数あるようだが、一体どこから入るのが正解なのだろうか。垣根越しに見える暗がりには極端な程に外灯が少なく、公園の中心地はここでは無いと知らせている。
公園の方を伺いつつ、自転車を押しながら足を進める。しばらくすると、垣根の向こう側を人影が早足気味に通り過ぎた。
秋だというのに上半身がタンクトップ一枚のみの、暗がりでも分る程ガッチリとした体つきの男。顔は判別出来無かったが、彼の人目を引くファッションはゲイ目線で無くとも『良いカラダをしている』と思わせるのに充分だった。
「寒く無いんですかねぇ~。」
とことんマイペースな発言をする涼芽さん。この公園がどんな場所なのか、彼女は本当に理解しているのだろうか。今更ながら不安になる。
しかしその不安は、彼女の次の言葉で見事に吹っ飛ばされた。
「お兄ちゃんも、ああいう男性がタイプなのかなぁ。うーん、実の兄とガテン系の絡みを見ちゃったら、流石にキツいでしょうねぇ。」
キツいと言いながらも、彼女のゆったりとした態度からは終始余裕が感じられる。一体、彼女は何者なのだろうか。
俺自身、『少々特殊』とカテゴライズされるような家庭環境で育ったためか、精神的に老けていると言われる方だ。しかし涼芽さんは、そんな俺から見ても一般的な二十代とは一線を画す雰囲気を放っている。
そんな事を考えながら彼女と連れだって歩いていると、小さめの公衆トイレとそのすぐ横にある公園への入り口が視界に入った。
その規模からして決してメインで利用されている入り口では無さそうだが、公衆トイレから入り口を挟んで反対側に簡単な駐輪スペースがあり、数台の自転車が停めてあった。キャパシティ的には余裕があるので、俺の自転車も停められそうだ。
「とりあえず、あそこに自転車を置いてきますね。」
涼芽さんにそう断って、一足先に公園へと侵入する。駐輪スペースに自転車を停めてから振り返ると、そこにはハッテン場の洗礼とも言える光景が広がっていた。
こちら側からは公衆トイレの中が見える造りになっており、開きっぱなしの男子トイレの個室のドアにもたれかかるようにして絡み合う男性二人組の姿がハッキリと見えたのだ。
おそらくかなり序盤なのだろう。まだ着衣は乱れてはおらず、濃厚なキスを交わしながらお互いの身体をまさぐり始めている様子だった。
夜の公衆トイレの明かりはその痴態を周囲の暗闇から浮き彫りにし、その二人が揃って眼鏡をしている事までハッキリと見て取れた。一人は頭にタオルを巻いており、まるでTVのAD(アシスタントディレクター)のような服装だ。そして、キスとキスの切れ間に、そのタオル頭と重なって、もう一人の眼鏡のヒゲ面がチラチラと見え隠れしている。
不意打ちの光景に脳みそがフリーズしていると、突如、涼芽さんの後頭部が俺の視界に入って来た。いつの間に俺のすぐ側に来ていたのか、全く気付かなかった。
我に返るのと同時、彼女には刺激が強過ぎるだろうと焦っていると、涼芽さんは俺の方に振り向き、スッと顔を近付けてから小声で言った。
「あの人達は兄ではありません!」
小声なのは、おそらく公衆トイレの二人組に気付かれないようにという配慮からだろう。しかし、若い女性とこの距離で会話をするのは、同棲していた元彼女と別れて以来久々だ。
ゲイのハッテンシーンに直面しても冷静な涼芽さんには驚いたが、それよりも彼女の接近によってフワッと広がった香りに心臓が高鳴った。香水や柔軟剤のような不自然に強い香りでは無い、ほのかに香るせっけんのような、彼女の愛らしい見た目に似合った『良い香り』だった。
(イカンでしょう!今はそういう事を考えている場合じゃ無い!!)
心の中で喝(かつ)を入れ、涼芽さんの顔を見た。彼女の背後では引き続き公衆トイレの痴態が展開されており、自分がこれからすべき事とその難易度を改めて認識させられた。
「涼芽さん…行きましょう!」
公園の奥へと続く道を見据えつつ、言った。
「ハイッ!!」
俺の言葉を受け、涼芽さんも気合いを入れるように短く返事をした。
しばらく公園の中を歩いて思ったのだが、夜とは言えこの公園は不自然な程に暗く感じる。それはおそらく外灯の数が少ないだけでは無く、緑の手入れがきちんとされておらず物陰が多いのだ。ハッテン場になるのには、そうなるだけの理由があるのだろう。
途中、おそらくハッテン相手を探している最中であろう男性二~三人と、垣根の陰でイチャついている半裸の中年カップル(もちろん男性同士)に遭遇した。しかし、その人達も涼芽さんのお兄さんでは無かった。
そう言えば、お兄さんは女装をしている可能性が高いという話だ。まだ女装子(じょそこ)らしき人物は見かけていない。
「この先は道が分かれてますね…。どっちに行きましょうか。」
T字路の行き止まりに突き当たり、そこにあった案内板のマップを照らすためにiPhoneを手に取った。すると、ちょうどそのタイミングでTwitterの通知音が鳴った。
普段は通知音をオフにしているのだが、ここに突入する直前にこの公園を俺に教えてくれたFさんにDMを送っており、その返信にすぐ気付けるようにしておいたのだった。少しでもこの公園についての情報を得られればと、ワラにもすがるような気持ちでDMを開く。
『私も数年前に一度行ったきりで、それも車窓から見た事があるだけなので詳しくはないんですが、駐車場側の入り口はちょっとした広場になっていて人も多かったです。公園の北西側だったと思います。徒歩ならくれぐれもお気を付けて。』
Fさんからの有益情報と、目の前のマップを照らし合わせる。どうやら駐車場はそう遠くないようだった。
「涼芽さん、駐車場に行ってみましょう。そこが溜まり場になっているみたいです。」
・・・・・
『駐車場側の広場』に抜けると、今までの空気は一掃した。
それまでは公園の木々に阻まれていた視界が一気に拓け、程良い距離に空港の明かりが輝いている。外灯もしっかりと周囲を照らしており、自動販売機の存在が何となく心強い。
何より、一番の違いは人口密度だ。公園の中を闇雲に歩き回っていた際は、人の気配がする度にいちいち身構えた。しかしこの広場周辺では、ザッと見渡しただけでも三十人程の男性が思い思いに過ごしている。広場の奥の駐車場には四十台程の駐車スペースがあり、その全てが埋まっていた。それどころか、駐車待ちの車まで見受けられる。
「あの人は何をしているんですかね?」
涼芽さんが、駐車場の方を見て質問してきた。
駐車場内をウロつきつ、何度も車の中を見て回っている人物が居るのだ。
「うーん、もしかしたらネットで待ち合わせをした相手を探してるのか…それか、単純に車内に好みの相手が居ないか物色してるんですかねぇ。」
俺もゲイサウナに行った事があるだけで、野外のハッテン場には詳しくは無い。
それにしても、見事に男ばかりの空間である。女性はこの涼芽さんただ一人のようだ。先程から、遠巻きにこちらを覗(うかが)う視線を感じる。俺達はこの公園において完全なる『異物』だった。
涼芽さんの顔を見ると、やはり周囲の視線に気付いているらしく居心地が悪そうに苦笑いを浮かべていた。
しかし、次の瞬間その苦笑いは消え、彼女の目が一際大きく見開かれた。
「…お兄ちゃん。」
そう呟いた彼女の視線は、すぐ近くの小さな人だかりに向けられていた。五、六人の男達に囲まれていたため見えていなかったのだが、その中心にはベンチに座った女性が…いや、涼芽さんのお兄さんであれば男であるハズなのだが、どう見ても女性にしか見えない、グレーのワンピースを着た人物の姿があった。
「お兄ちゃん!お兄ちゃんでしょ!?」
涼芽さんの声に、人だかりが割れる。そうして露(あら)わになったワンピースの人物の背後にはちょうど白いシャツを着ている男が立っていたため、その顔は余計に浮き彫りになった。
(嘘だろ…!?)
正直、ハッとする程に好みだった。まあ、俺には統一した好みの傾向といった物はあまりなく、可愛ければそれでイコール好みのタイプなのだが、涼芽さんの愛らしさを『陽の可愛さ』とするなら、『陰の美しさ』といった所だろうか。
黒髪が映える白い肌と、どこか虚(うつ)ろな瞳が、怪しい魅力を放っていた。
「涼芽…?どうしてこんな所に居るの??」
その人物が、不自然に高い声で涼芽さんの名を呼んだ。それはつまり、彼女(?)がお兄さんである事の証明であり、性別も男という事で確定である。俺は何だか複雑な気分になった。
「どうしてじゃ無いよ!お兄ちゃんてば、福岡で住み込みのリゾートバイトしてくるって出てったきり連絡取れなくなって。お母さん心配してるよ。私、ネットで必死に探したんだからね!!」
まるでここが地元の駅前や自宅のリビングであるかのように、ごく自然と兄を叱りつける涼芽さん。
「リゾートバイトはリア充ばっかでキツいから、もう帰るわよ。どっちにしろ、もう季節外れでバイトも終わるし。」
そして、『女装をしてハッテン場に居るところを妹に目撃される』なんて、下手したらこれから本格的に行方不明になってもおかしくない状況なのに、顔色一つ変えずに淡々と語るお兄さん。
そんな二人の言い争う声に、周囲のゲイの方々がどんどん集まってきている。何とシュールな光景だろうか。
「涼芽さん、と、とりあえずここから出ましょう…。」
俺は焦り、二人の間に割って入った。
「涼芽、この人誰?」
お兄さんが、俺の事を不思議そうにジッと見つめる。その目つきも色っぽかった。
周囲に出来たゲイの海をモーセのように割り、涼芽さんとお兄さんを公園の外へと誘導する。途中、背後から「シナ子ちゃんもう帰っちゃうの?」という声がして、お兄さんはその声の相手に投げキスをしていた。
その後近くのファミレスに入り、二人の仲裁をしながら事の顛末(てんまつ)を知った。
涼芽さんは、連絡が取れなくなったお兄さんを心配する母親に懇願され、手がかりを得るために実家のお兄さんの部屋を物色したそうだ。その際に女装が趣味だと知り、お兄さんがゲイでそれを苦に失踪したのではないかという発想に至った。そしてネットでゲイ関連の掲示板等を検索し、お兄さんらしき人が毎週土曜にこの公園に出現している事を突き止めたのだそうだ。
しかし、お兄さんはあっさりと「ゲイじゃない。この美しい姿を見せつけて、チヤホヤされたいだけだもん。連絡して無かったのは、普段しない労働をして疲れてたから。」と言い放った。
ファミレスの蛍光灯の下にあっても、お兄さんは美しかった。
・・・・・
俺が経験したあの一夜の出来事は、一体何と呼べばいいのだろうか。あの混沌に名前があるのならば、是非教えて欲しい。
その後俺は一週間の出張を無事に終え、東京の地に舞い戻った。
成田空港に降り立ち、iPhoneを機内モードからオンラインに切り替える。すると、LINEの新着メッセージが届いていた。
見てみるとそれは、涼芽さんとお兄さんと俺の三人で作ったグループLINEへのメッセージだった。その二人から、それぞれメッセージが入っている。
涼芽さんからは、お兄さんが実家に帰って来た事の報告と、丁寧なお礼の言葉が。お兄さんからは、今度涼芽さんと二人で東京に遊びに行くので俺に東京を案内して欲しいという旨が書かれていた。
またあの二人に会えるのだと思うと複雑ながらも嬉しかったが、一体俺は涼芽さんとお兄さんのどちらに会える事が嬉しいのだろうかと、手荷物レーンを眺めながら頭を抱えた。
~「ハッテン場」おわり~
面白いと思っていただけたら、右下(パソコンからは左下)の♥をポチッとお願いいたします!押すのは無料です。note未登録でも押せます。私のモチベーションに繋がります!!
↓次のお話はコチラ
※※追記※※
何と!声のプロでいらっしゃる「野嶋らん」様(宅録ナレーター)と、サートーさんご本人の演出で一部音声ドラマ化いたしました!!
↓ノジマ(野島らん)さんのフォロー/最新ツイートはコチラ
☆Special thanks☆
主人公:サートーさん
ヒロイン:あまぼしすずめちゃん
兄(シナ子):ヤマッシナ氏
↓サートーさんのフォロー/最新ツイートはコチラ
↓すずめちゃんのフォロー/最新ツイートはコチラ
↓シナ子ことヤマッシナ氏のフォロー/最新ツイートはコチラ
↓シナ子のサウスパークブログはコチラ
↓私の真面目な方の小説はコチラ
↓私の最新作、全然ハッテンしない空回りラブコメはコチラ😉✨