あかるい ともだち
「今日ワラビーいるよ〜」
iPhoneの通知が届く。誰からかなんて確認しなくてもすぐわかる。中島だ。
ワラビーというのは、中島がよく行く飲み屋の名前なのだが、本当の名前はワナビーだ。中島はずっとワラビーだと思っていて、常連仲間に指摘されたときにびっくりしていたが、ワラビーのほうが可愛いと言って未だに呼び方を変えない。ちなみに僕は、中島からワラビーと聞いて蕨を頭に思い描いていた。実家から届くと天ぷらにして食べる。
中島の誘い方はいつもこんなかんじで、着いたよ〜とか、美味しいよ〜とか報告が続くだけで、来てよなどとは絶対に言わない。そこが自分には心地よくて、ついつい中島のところへ行ってしまう。
ただ、問題がひとつあって、中島は底抜けに明るい。明るくて気が使えて、人気者だ。どの店でも、誰とでも友達で、なんで僕を誘うのかは未だに良くわからないのだけど、僕も中島といるのは楽しいので、夜な夜な出かけることになる。
中島の横にいるやつということで、初めて合う人は期待して接してくるのだけど、つまらないやつということが伝わるのには5秒もあれば充分だ。そんなとき、だいたいの相手は中島だけに話をしだして、僕はひとりでゆっくり酒でも飲み始める。時折中島を介して話題には加わるが、その場が盛り上がるようなことはない。
お店に入ると、中島は知らないカップルと話しながら、こっちだよという仕草で僕を呼んだ。中島に紹介されると、カップルの女性のほうが「ヨロシクー」と言いながら手のひらをこちらに向けて近づけてきた。僕は、瞬間的に中島の楽しい友達になろうと判断して「よろしくー」と言って、女性の手のひらに、自分の手のひらを重ね合わせた。
手の先から徐々に光り、次第に僕の体が明るく輝き始めた。カップルが眩しそうに顔を歪める。中島が僕に手を伸ばそうとしているのが見えたが、自分から発せられる光が強すぎて、はっきりとは認識ができない。この明るさに、周囲の人も注目をしている気配を感じる。
気がつくと僕は自分の家で寝ていた。キャベツ太郎が2袋入ったコンビニの袋が置いてあって、中島が連れてきてくれたことがわかった。
「今日そっち行くわ」
LINE通知を見て、僕は中島のあかるいともだちになれたんだと思った。