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鳴けない、うさぎ

僕はうさぎ。
ご主人様が思いつきでペットショップで僕を選んで、そして僕はこの家まで連れてこられた。
僕は茶色いうさぎ。ご主人様は初めの何日かは、とても可愛がってくれた。写真もいっぱい撮ってくれた。
でもそのうち「やっぱり猫にすればよかった」と言うようになってきた。
僕は悲しかった。寂しかった。だってご主人様が大好きだから。
どうして僕じゃなくて猫なのかと何日も考えた。そして僕は思いついた。
僕は猫みたいに鳴けないからだ。
鳴けないから、可愛くないんだ。
僕が猫みたいに「ニャー」って鳴きながら、ご主人様に甘えることができたら、前みたいにぎゅーって抱きしめてくれるかな?
その日から僕は必死に声を出す練習をした。
でも、どうしても声が出ない。
声を出そうと、もがけばもがくほど、僕の体は痒くなって毛が抜けてゆく。頭も痛いし、体もだるい。
僕は毎日、神さまにお願いするようになった。
「神様、こんなに毎日辛いなら、どうか僕をお空に連れていってください」

そうしているうちに、ご主人様は白い若い子猫を連れてきた。
僕は捨てられると思うと怖かった。悲しかった。悲しいと思うと、また毛がどんどん抜けてゆく。
子猫が不思議そうな顔で僕に言う。
「どうして毛が無い所がたくさんあるの?」
僕の体が震えた。悔しさと悲しさと色々な気持ちが混ざりあって気持ちが悪い。
僕の体は思うように動かない。なんだかすごく眠くなってきた。子猫が心配そうに僕の横で鳴いている。
「猫はいいなぁ。可愛く鳴けて」

気がつくと僕は知らない部屋にいた。病院と言う所に連れてこられたらしい。ここの人たちは僕に優しく声をかけてくれる。僕は嬉しかった。こんな僕にも優しさはもらえるんだ。
僕はとても温かい気持ちで深い眠りについた。こんなにぐっすり寝れたのは久しぶりだなぁ。
 
僕が目を覚ましたのは、何日か経ってかららしい。体がとても軽い。頭の痛いのも消えていた。若い女の人が僕の頭を撫でながら「治ってよかったね」と優しく言った。
僕は猫みたいに「ありがとう」が言いたくて必死に声を出そうとした。でも出ない。
すると女の人は「無理しなくていいよ。それにしても、ほんと君は可愛いね」
と言ってくれる。
「そうかぁ、僕は鳴かなくてもいいんだ。そのままでいいんだ」
僕の重かった気持ちが、なんとなくスッキリしてきた。

僕の体が治った頃、ご主人様が迎えにきた。なぜか僕は前ほどご主人様を好きではなくなっていた。
でも、子猫はいつも僕の側に来て話しかけてくれる。
そして「うさぎさんは、いいね。ふわふわした毛と長い耳。うらやましいなぁ」と言ってくれる。
僕は猫みたいに鳴けないけど、「生きてても、いいんだ」と思えるようになってきた。
ご主人様は相変わらず猫ばかり可愛がっているけど。

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