美穂さんのこと(聖書を題材にした絵本を制作)
私の通っていた神学校の一年上の先輩に久保田美穂さんという方がいた。
初めてお会いしたのは、美穂さんが神学校を卒業するという、その卒業式の日だった。その年は学生が美穂さんたった一人で、一人で入場し、代表の挨拶をされていた。よく通るはっきりした声と、飾り気のない率直な言葉が印象的だった。
でも私にとって、美穂さんの忘れられないエピソードは他にある。
神学校の数あるイベントの中で、一週間の合宿がある。
場所は国立青少年の家を借りて、一週間みっちりと神学の講義を受ける。
近年は大分時間にゆとりのあるスケジュールだが、以前は講義に加えて連日課題も出されており、なかなか過酷な合宿だったようだ。
その合宿に美穂さんも来られていた。
一日の終わり、眠気と戦いながら、夜の講義を終えた学生たちは宿舎に戻る。
朝、私が目覚めた時、まだ陽が昇る前で周囲は暗かった。
暗がりの共有スペースの電気のスイッチをつけると、部屋の片隅に人の姿が浮かび上がる。
そこにいたのは美穂さんだった。
美穂さんは、一人で聖書を広げ、祈っていた。
普段から明るく、いつも活気と笑顔に満ちた美穂さんの、もう一つの顔を見たような気がした。
というよりも、いつも明るく周りを気遣うその力は、このように一人静かに神様と向き合うことから来ているのだと思った。
『アブラハムとイサク』より 美穂さん作
大きな教会に所属し、様々な形で教会を支えている美穂さんは、毎週行われる祈り会も主催されていた。
人が来ても来なくても、いつも絶やさず連絡を回し、食事の準備をされていたことを後になって知った。
その姿は、誰かの為というよりも、神様との間の決断を忠実に果たしているように思えて心が打たれた。
それから月日が経って、私も学校を卒業してしばらく経った時、再び美穂さんと会う機会があった。
美穂さんは今、聖書を題材にした絵本を描いているのだと言った。
初めて教会に訪れた人が聖書に興味を持てるようにと、宣教師に勧められたのがきっかけだったそうだ。
私は、自分が卒業する時に、美穂さんに頂いた色紙を思い出した。
メッセージと共に、優しい色合いで描かれた似顔絵が嬉しくて、ずっと眺めていた。
どんなことを絵本で伝えたいのですか?と尋ねると、はっきりと「聖書の魅力が伝えたい」と返ってきた。
「直接的な表現でも遠回しの表現でも、どんなお話を作るとしても原点は聖書です。
神様に愛されていること、永遠の命のこと、イエス様のことが結局のところ滲み出るだろうと思います。
そのことが私は伝えたいんだな、と思います」
『良いサマリア人』より 美穂さん作
神様と、そして聖書と向き合い続けている美穂さんを通して、
これからどんな絵本が生み出されていくのだろう。
いつか多くの方が、あの優しい色合いを通して、イエス様の愛を知ってくれたらと思う。