出産の記録 (後編)
こちらの記事は、出産の経験を記録とし自分自身の日記に書き記したものです。
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入院していたのは陣痛室と呼ばれる場所で、そこは4つのベッドがカーテンで仕切られた相部屋だった。時折、先に入院していた方のうめき声が聞こえてくる。私もじきにそれほどの痛みがくるのだろうか。様子を見に来られる助産師さんからも、「これからもっと痛くなるわよ」と言われ恐ろしくなった。陣痛は、例えるなら吐き気と腰痛と生理痛と貧血が混ざったような感じ。
朝になって朝食が運ばれてきたものの、気持ちが悪くてほとんど食べれない。でも何も食べないと本当に倒れそうだったので、ヨーグルトと野菜ジュースだけ口に入れる。
10時過ぎ子宮口が開き切っていたので、分娩室に移動しようと助産師さんに言われる。あら。まさかこんなにすぐに分娩になるとは。陣痛の痛みがまだまだ序盤だと思っていたので驚く。
すぐに夫に電話。家で過ごしていた夫も驚いていた。
11:00前に分娩室に入る。夫が到着。出産に間に合ってよかった。医師の方に、出産時に赤ちゃんが苦しくなった場合には会陰切開をするがよいかと聞かれる。やむなし。
赤ちゃんを外に押し出すために力をいれることを「いきむ」という。陣痛の痛みに比べるといきむ方が楽だった。3、4回いきんだが、赤ちゃんの頭が引っかかって出てこない。
医師の判断で会陰部を切開する。恐れていたけれど切開自体は麻酔をしているので痛くなかった。そして、痛いなどと言っている状況ではないのである!そして次の陣痛に合わせて力を入れる。なにががズルっと出てくる。そしてすぐに泣き声が聞こえる。産まれた!赤ちゃんだ!本当にお腹の中にいたんだ。瞬間そんなことを思う。
11:54、誕生。髪の毛がすでにふさふさだ。そしておでこにも毛が生えている。あれよあれよと言う間に、小児科の先生や助産師さんが産まれた子どもの体調をチェックしている。こんな時意外と冷静な自分がいて、髪の毛のことなんかを気にしていた。隣にいる夫は嬉しそうだ。産まれたての我が子は人間というよりも、青虫のようにふにゃふにゃ動いていた。
泣いていたのはわずかな時間で、寝かされた我が子はすぐに静かになった。「穏やかな表情をしている」と思った。視力はまだはっきりしていないが、光は感知しているらしい。初めてこの世界を眺めている我が子。その様子を眺めている私。
感動に浸る余裕も、親になったという実感も、何もなかった。ただわかったのは「終わった」ということ、そして我が子がこの世に誕生したのだということ。
その後、しばらく体を休めるために赤ちゃんとは別室のベットで横になっていた。その時カーテンの向こうから別の赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。その力強い泣き声を聞いた時、ふいに涙が溢れた。新しい命の声だ。私も母になったのだ。