初めての家族旅行の思い出は、少し可笑しくて、愛おしい。
先日、夫と娘と3人で、初めて泊まりがけの旅行をした。
楽しみにしていた旅行ではあったが、同時に不安もあった。というのも旅行の2週間ほど前から胃腸炎にかかり高熱と下痢に悩まされていたからだ。幸い旅行前にはほとんど回復していたが体力はかなり落ちていた。それに加えて幼い娘との旅…。そんな不安を他所に、夫はいつも通り陽気で「あそこのつけ麺屋に行きたい」と楽しそうだった。
そして旅行当日。乳飲児を連れて出かけるということは、独身の頃のデートとは全く勝手が違うということを痛感させられた。ベビーカーを押して歩くから階段は使えない。数時間おきに授乳ができるスペースを考えて移動しなければならない。午前中も午後も昼寝をする娘のために、静かな場所を探さなければならない。それに加えてまだお腹の具合が完全でなかった私は、しょっちゅうトイレに駆け込んでいた。そんなわけで、旅行前に計画していたスケジュールはほとんどこなせなかった。幸い、夫が行きたいと言っていたつけ麺屋には行くことができた。夫は「僕はこれで満足だよ」と言っていたが、私は少し残念だった。折角家族で旅行に来たのに、ほとんどをホテルで過ごしてしまった。少なくとも、もっと元気な時に来れれば、もっと楽しめたのではないだろうか。
旅行最終日の朝。折角だからどこかで美味しい朝食を食べようかという話になり、夫が色々と探してくれた。
でも、娘を連れて出歩くのは不便だからと、宿泊先のホテルで朝食を食べることに決めた。
1階のロビーの横にあるレストラン。そこが朝はビュッフェ形式の朝食会場になっていた。
何種類ものドリンク、フルーツ、ヨーグルト、和洋それぞれのお惣菜。
ちょっと妥協した末の朝ごはんだったけれど、好きなものを好きなだけお皿に盛って家族と食卓を囲んでいると、私自身が幼かった頃の家族旅行を思い出した。家族で旅行する時には、大抵泊まったホテルで朝食を食べていたっけ。母がホテルで食べる朝食が好きで、いつも嬉しそうにしていた。家事や子育て、仕事をしている母にとって旅行中の食事の時は、ほっと一息つける安らぎの時間だったのだろう。
そんなことを考えていると、今回の家族旅行も色々なことがあったけれど全てがよい思い出になるような気がした。
ぐずる娘を連れて早めにホテルに戻ってきたら、まだ清掃途中で、清掃してくれていた方とたわいもないお喋りをしたこと。出かけた先で必死にトイレを探したこと。家にはないからといってホテルの部屋で夫婦でテレビを見て過ごしたこと。
初めての家族旅行の思い出は、少し可笑しくて、愛おしい。
思わず口から「楽しいね」という言葉がこぼれた。それはこの朝食の時間に対することでもあり、この旅行に対する思いでもあったかもしれない。
でも仕切りに「楽しい」を繰り返している私を見て、夫も嬉しそうだった。
旅行から帰り日常生活に戻ったある日、夫がふと思い出したように「あの時の朝食は楽しかったね」と言っていた。
「そうだね」と言いながら、ああ、こうやって家族の大切な思い出ができたのだ、と思った。