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夫の髪を切り続けながら思うこと
先日夫の髪を切った。夫の髪を切るのはかれこれ5回目になる。夫は取り立ててファッションにこだわりがあるわけでもなく、それまでは理髪店のタイムサービスで1000円くらいで髪を切っていた。どういう流れで私が髪を切ることになったのか、今となっては思い出せないが、いつの間にか夫がAmazonでバリカンを購入し、私は散髪用のケープ(髪が服にかからないようにするカッパのようなもの)を購入し、私が夫の髪を切ることになった。
しかし、髪を切るなんて自分の前髪以外では初めての体験である。バリカンの使い方の動画を何本か見てみると、美容師の方が瞬く間に髪を刈りそろえている。意外と簡単そうだ。
意を決してバリカンの刃を夫の髪に当てていった。
結果、彼の髪は「とりあえず短くなったものの、格好良くはない」髪型となってしまった。
要するに失敗したのだ。もし自分の髪がこんな風に格好悪くなってしまったと考えると、とても辛い。私は夫のこれからこの髪型でしばらく生活しなければならないことを考えると、夫に申し訳なくて私は非常に落ち込んだ。
一方切られた夫と言えば、「頭のサイドの毛量が多いね」と言うだけであっけらかんとしている。落ちこんでいる私に気を遣っていたのかもしれないが、「いいじゃない」とか「格好良くなった」と言って喜んでいた。
そしてそれ以来、私が夫の髪を切ることになった。1、2ヶ月に一度髪を切る。その度に私は「失敗したな」と思うのだが、夫は髪を切られて喜んでいる。
上達したいという思いはありつつ、思うだけで何もしないままいつも散髪の日を迎えていた。
ところが先日、夫が「そろそろ髪を切ってほしい」と言い出して、加えて「髪の切り方について少し研究したら?」と言った。あなたはいつも自分の感覚に頼って切っている。切るたびに経験は積み重ねているけれど、上達したかったらプロの切り方を研究してみてはどうだろうか。そういったことを夫は言った。それもそうだと思いバリカンの使い方や、夫の希望する髪型について書かれている記事を何本か読んでみた。
そして実際に夫の髪を切ってみると、結果どうだろう。もちろん素人臭さは残るけれど、以前と比べると格段に良くなっている。
それまでの自分の実践経験と、プロの方が積み重ねた理論が相まって、髪を切ることの技術が上がったのだ。初めに理論を読んでもピンと来なかったことが、何度か経験したことによって理解ができるようになっていた。
「髪を切る」というささやかなことであったとしても、上達したということが嬉しかった。
もしも夫が、初めて切ったときに「こんな髪は嫌だ」とか「もっと勉強してほしい」とか言っていたらこうはいかなかっただろう。
失敗が許される環境で、そして楽しんでできる時に、人は学ぶことに抵抗がない。そして学んだことは、きっと形に現れるのだ。
小さな自信が、繰り返す日常のなかで生まれたことが嬉しかった。