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初めてのドッグラン

実家には犬がいる。父が「柴犬ほしい」と顔の広い友人に頼み、ある日突然調達されてきた、2歳の成犬柴。自分が想像する柴より大きく恰幅が良くて、毛がつんつん固くて、名付けるならタワシかキウイだなと考えていたが、妹により「きゅうた」と名付けられた。けれど、最終的には父が間違えて「きゅうたろう」と役所に出してしまったので、戸籍上の名前はきゅうたろうになった。

うちに来るまでの間に2、3人仲介者がいるため、ブリーダーのところから来たらしい、という以外に彼の出自を知る人はいない。爪が伸びていたのが気になった。

うちに来て1週間ぐらいの頃、私がこっそり散歩しようとしたら首輪が抜けて、脱走してしまったことがある。ぷりぷりしたお尻はどんどん小さくなり、見えなくなった。

1日経っても全然戻ってくる気配がない。家には一式買いそろえた愛情あふれる犬グッズと首輪だけが残されている。家族に顔向けできなかった。気が気じゃなかった。(当時私は職場でほとんど喋らなくなったらしい)

保健所と警察に届け出た。
警察から「どんな顔ですか?」と問われた時は困惑したが、真剣に「きつね顔よりどちらかといえばタヌキ顔ですかね…」と答えた。警察のおじさんは「タヌキ、」とメモしながら「私は南の方に逃げていると思うね~」と話していた。

あまり意味のない会話だったかもしれないけれど、今思えばだいぶ適当なこと言ってたなあのおっちゃんと思うけど、遺失物として淡々と受付されるより、だいぶ気持ちが救われた。

きゅうたろうは、2週間後に蜘蛛の巣だらけで放浪していたところを無事捕獲された。

あの日から3年経った今

・人に懐かない。物音に過敏で、緊張すると石のように固まる。口を引き結んで黙って耐える。

・どんな人にも一切吠えない。多分泥棒に入られても置物のようにじっとしてる。

・お座りとお手を覚えたが、成功率は1割。お手、の手の平に怯えてずりずり後ずさりする

散歩が大好きなこと以外、見事なまでに前に飼っていた犬とは正反対だ。

そんな彼がなぜか車に乗りたがるという事実が最近わかってきた。昔よく乗ったのか?

今日は彼を車に乗せ、ミニドックラン併設のカフェに母と一緒に行ってみる。車内では暴れることもなく大人しかった。

ワンドリンク頼めば、自由にドックランを利用できる小さくて素敵なカフェだった。

いざ、ドックランの中へ。人間に懐かなくても、犬となら友達になれるのか。検証開始。

先客はシーズー3匹。

元々は保護犬の3兄弟で、それぞれ別の家庭に引き取られており、今日は久しぶりに兄弟を再会させて遊ばせていたそうだ。人懐っこくて、3兄弟はじゃれまくっていた。その中にも好奇心旺盛な子やのんびり屋な子、威嚇されてもめげずに尻尾を振って果敢に近づく子と個性が出ていて面白かった。

その輪にうちの犬がのそのそ放たれる。

ばーっと寄ってくる3兄弟。くんくんにおいを嗅いだり嗅がれたりして、馴染んでいく。特にテンションが上がる様子もないが、怯える様子もない。しっぽを振っている。楽しいようだ。

一匹だけ図体が大きくて、一番温厚で、春日部防衛隊の中にいるぼーちゃんみたいな立ち位置だった。「お名前なんていうの?きゅうちゃん!可愛いねー」「柴犬なのにこんなに我がない子は初めて見ました、お利巧ですねー」と周りの人にべた褒めされる。優しい常連の方々。こうやって犬友は出来ていくのか。

なんだろう、人間だけで居合わせたら、何を喋ろうって気まずくなるところも、間に犬がいることで、距離が縮まる。同じ何かを眺めていながらだと、コミュニケーションがとりやすくなる。

ドックランに通えば、自分のコミュ力も上がる気がした。

「離してみたら?大丈夫よ」と言われて、リードを離してみる。その間に、テラス席へもどりコーヒーとパンナコッタを食べつつ、様子を眺める。まるで犬の保育園。

最終的にはちゃっかりシーズーやチワワに交じっておやつまでもらっている。フリスビーを投げてもらうも、そちらは無視。

リードをおもちゃにされて引っ張られようが気にしない。優しくて物静かで、自分の感情を表に出さない、苦しくても苦しいって言えないこのきゅうたろうという生き物。彼についての検証は続く。


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