
チェンマイ俳句毎日を振り返って
今月の句会に、「老猫は僧侶の膝へ去年今年」を提出したら、日本の年末年始のお寺は大忙しで呑気にしてはいられないが、タイのチェンマイならこんな風に年が明けていくのかもしれない、という感想をいただいた。私自身は、長年日本を離れ、日本の年末年始の空気感さえ忘れてしまっていることに驚いている。
1年間、俳句日記をやってみた。書くのはだいたいその日の夜で、俳句が先にできていたらいいが、ほとんどは日記から書き始め、それに合わせて句を詠むことになる。そうすると、どうしてもその日にあったことをただ説明するような句になりがちで、読み直してみるとちゃんとできてない句がほとんどで恥ずかしい。それでも、たった17文字にその日感じたことが閉じ込められていて、読めば小箱の蓋を開けるようにひとつひとつが蘇る。
改めて昨年を振り返ってみて、それなりにいろんな経験ができた年だったと思う。俳句毎日、まあまあ大変だったがチャレンジしてみてよかった。
どれもひねりのない稚拙な句ばかりだが、その中で気に入っている句やチェンマイの雰囲気が出ているかなと思う句を選んでみた。
(新しい順)
* * * *
冬あかね猫のことばを真似てみる
刺繍の手止まぬ円座の日向ぼこ
機嫌良く二日の餅の膨れたり
老猫は僧侶の膝へ去年今年
星月夜サンタの手紙清書する
旅人が旅人に逢ふ冬夕焼
下着屋のマネキン被る冬帽子
寒暁や白き花より明け初むる
サルの街ヒトは檻にて剥く蜜柑
まどろみのまなこに百の羊雲
ハロウィンの南瓜お化けが売る南瓜
天涯の稲穂の波の端にをり
長き夜のボンタンアメのオブラート
ターミナルA迷ひ込む秋雀
淵に入る龍の濁らす大メコン
万寿菊腕四本の象の神
丸顔が丸顔に売るメロンかな
花数珠の花ひらきゐる雨月かな
秋隣る手書きの地図に足す小路
常夏を原色タクシー疾走す
オカリナに大地のにほふ夕立晴
恋話やアイスを溶かすブラウニー
傣族の真白きころも安居寺
はぜらんと隠れているよもういいよ
夏の河流るる手描きの象棋盤
つちぐりの吐き出す煙みどりの夜
夕立風ドリアンにある千の棘
空夜ふと耳当ててみる冷蔵庫
夏の雲家族と一匹乗るバイク
莢付きの焼きそら豆のきうと鳴く
こどもの日山羊の黒目の長方形
タイパンツの象みな横に向く日永
穀象や足もとにある宝もの
ルービックキューブ揃わぬまま卒業
トゥクトゥクの風ジャスミンの花輪の香
夏隣コーラの瓶にあるくびれ
眼窩奥ほうつと明るき春の風邪
寝ころびてアートの一部となる春日
紅棉花知らぬ言葉の子守唄
雪便り布団の中の文庫本
猟銃を見せ合ふ森の昼餉かな
ムササビの頭をしやぶる老猟父
花阿輸迦脇より出づるお釈迦さま
無憂樹の花や印度の菓子甘し
南国のシネマホールに着膨れる
女伎始め縫目折目の真正直
* * *
4月に一時帰国、久しぶりの美しい日本の春も満喫できた。
* * *
春風の信号待ちにひくルージュ
麻服の彩雲めける貝釦
殿様も輪のなか春の阿波踊
春愁の眸のタコのすべり台
宍道湖をとほく砂吐く蜆かな
つちふるや千木へ一羽の八咫烏
日永さの花のかたちの蕎麦ぼうろ
途中から夏雲となる空の旅
につぽんの春気吐ききる首枕
* * * *
ということで、「俳句毎日」はひとまず終了します。
1年間、拙い文章にお付き合いくださった方々、本当にありがとうございました! みなさまのおかげで続けることができました。
今後は、俳句週間(?)かエッセイを週一くらいで掲載したいと思っていますので、どうぞ引き続きよろしくお願いします。
いいなと思ったら応援しよう!
