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冬茜 * チェンマイ俳句毎日

【チェンマイ俳句毎日】2025年1月8日

大通りの交差点で信号待ちをしていたら、後ろから「ミャーー!」と猫の鳴き声がした。それが驚くほど大きな声だったので思わず振り返ったが、猫っぽい生き物は見当たらない。

その代わり、物売りのおじさんがビニールに入った落花生を手に幾つもぶら下げて、停まっている車に売り込んでいた。

この手の物売りは日本にはいないと思うが、チェンマイでは大きな交差点の信号待ち時間に、ジャスミンの花輪や乳酸飲料、豆やおせんべい、子ども向けのシャボン玉などを手売りする人を見かけることがある。ちょっと面白い商品としては、柄が伸びるタイプの箒や梯子なんてのがある。あの手のやたらかさばる商品は、荷台に乗せられるからつい欲しくなる、車内の心理をうまくついたセレクトだ。

この交差点は信号の待ち時間がすこぶる長い。私のバイクのすぐ横にいた物売りのおじさんは、道端に座りこんだ。マスクをして深く帽子を被っているから顔はほとんど見えないが、日に焼けてゴツゴツした手の甲に呪文っぽい入れ墨が見えたので、まあまあ年配の少数民族の人かな、なんて思っていたら、突然、そのおじさんが、「ミャーー!」と大声で鳴いたのである。

一瞬、笛の音かと思った。鶏を飼っている人が餌をやるときに吹く金属製の笛があるので、それに似た猫の鳴き声がする笛(そんなのないか)? なんて思ったのだが、マスクをしているので違うっぽい。

もしかしたら言葉が出ない人なのかもしれない。それなら豆と一緒に、一袋20バーツとか値段を書いた札を持つといいのに、なんて買わないのに要らぬお世話である。

信号が青になり、バイクや車のエンジン音が大きくなる中で、おじさんはもう2度続けて鳴いた。

冬あかね猫のことばを真似てみる


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古川節子
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