柚子ひとつ * チェンマイ俳句毎日
【チェンマイ俳句毎日】2024年10月17日
高知県に遊びに行ったというタイ人に会った。数年前に、高知県の柚子の農村について書かれた本がタイ語訳されて、その本を読んだ私の周りのタイ人は、面白かった、いつかその村に行きたい、などと言っているのを聞いたことがあったが、本当に出かけた人もいるんだなと驚いた。
タイでは数年前から柚子が流行っている。ジュースやかき氷のシロップなどに柚子味が好まれる。私は柑橘系ならスダチも柚子もなんでも大好きで、種を植えてみたことがある。ちゃんと芽が出て、すくすくと育ち、5年目には見上げるほどの高さになった。
うっかりしていたが、柑橘系の植物には鋭いトゲがある。裏の戸を開けたすぐ前に植えてしまったのでなんだか危なっかしい。夫は邪魔だ言って、「もう切る!今日切る!」としょっちゅう言っていたので、植える場所をよく考えなくて申し訳なかったと反省した。
切るぞ切るぞと言われてビビったのか、柚子の木は、その年ひとつだけ実をつけた。
それまでは、花が咲いても実はひとつもできなかった。柚子は収穫できるのに18年もかかると聞いたこともあったし、気候的にも難しいかなと半ば諦めていたのでうれしかった。
いざ実がつくと、夫の方が毎日実の様子を見て水をやり、面倒をみていた。たったひとつの実は順調に大きく黄色くなり、ついに収穫する日がきた。夫は張り切って収穫用の道具まで作った。
もぎたての柚子の実は、手のひらの中でおひさまのぬくもりがした。実を嗅ぐと確かに柚子の香りだ。しばらくテーブルの上にその柚子の実をおいて愛でた。黄色くて丸くて、いい匂いの柚子の実が部屋にあるのはとてもいい。表面のぼこぼこさえ可愛く感じられた。ひとつだけ実をつけた柚子の木は、その後、あっけなく枯れてしまった。
食卓のあかりとなりて柚子ひとつ
たなうらに日向のぬくもり柚子ひとつ
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