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桜蘂降る
【チェンマイ俳句毎日】2024年4月23日
桜蘂降る赤い頭巾の石地蔵
歯科健診の帰り、いつもと違う道を歩いていたら、花桃が満開の小さなお寺の前を通りかかり、花に惹かれて寄ってみることにした。
お堂の前には桜も植わっているが、そちらはもう葉桜になりつつある。石の階段に降り積もった赤い桜の蘂を掃いているお婆さんに会釈をしたら、「ここに座って、この桜の木の根元の辺りを見てごらんなさい」と声をかけられた。
お婆さんに言われるまま、お堂の前に置かれたベンチに座ると、ちょうど正面に桜の古木があり、その根元には色とりどりの花が供えてあった。
白髪の痩せたお婆さんが大きな竹箒を持ったまま話してくれたのは、こんな内容だ。
何年か前にお婆さんがこの寺をお参りしたら、桜の木の幹にお地蔵さんがふわっと2体浮かびあがった。お婆さんは驚きつつも手を合わせると、当時患っていた大病が治り、以来、この桜の木を大切に祀っている。この木には空襲で亡くなった子供の霊を救うお地蔵さんが宿っている。だからどうぞお詣りください、ご加護がありますよ、と。
「そういう能力のある人に話したら、あなたは心がやさしいから見えるんだって言われたんです」というので、私もじっと桜の古木を見つめてみたが、大きな瘤が2つ並んで見えるだけだった。
樹齢80年という貫禄のある桜の木は、お婆さんに護られて、太い枝をまるでお堂の軒のように横ヘ伸ばし、桜蘂を降らせ続けていた。
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