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2025年 大寒
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身体が求めるもの。突然トマトが食べたくなったり炭酸飲料が欲しくなったりする。そういう時は可能な限り我慢しない。
雪が降り出した小樽の景色を眺めていたら、突然ショスタコーヴィチが聴きたくなった。クラシックを聴きたくなることが年に数度あるけれど、作曲家指定で思いついたのは初めてだった。とりあえず検索して出てきたものを聴いているうちに、ふと子どもの頃の冬の記憶が蘇ってきた。暗くなっても夢中でそり遊びをして叱られた日。楽しさと寂しさは裏表であることを知った日。ぼくの身体が求めていたのは、その記憶の再生だった。
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ふたご座に火星がいるよ
今夜こそ真っ直ぐな詩を書いてみたいよ
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子どもの頃、回転木馬は哀しい乗り物だと感じていた。なぜそう感じていたのか長いことわからなかったけれど、あれは人生の象徴なのでは、とふと思った。動いているように見せかけて本当は同じ景色を繰り返し見せているだけ。ゴールも出口もなく、時間が来たら止まるだけ。
でもそこにいる人たちは本当に楽しそうだ。その華やかな雰囲気に飲まれれば楽しいのかな。答えのない問いがぐるぐる回っている。
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どこまでも今日を追いかけたくなって
口癖さえも染められてゆく
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風がつめたい。冬の感覚を取り戻したようだ。雪も降ってきた。一月に入ってから穏やかな日が続いていたけれど、忘れかけてたものが戻ってきた。
ちょうど一年前、吹雪で車が走れなくなった道を、雪を漕いで歩いたことがあった。強い吹雪で正面を見ることもできない中、小一時間歩いた。その記憶を呼び起こすと不思議とあたたかい感情が湧き出す。その時の自分を少し誇らしく感じる。ただ帰宅しただけのことなのに。
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どれだけ丁寧に夜を解いてみても
届かないことばなんかいらない
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大事なものを守るために生まれてきた。それなのに誰かの目に触れることを許されない。それでも自分の存在を知って欲しいから明るい場所を目指し懸命に伸びようとする。鼻毛とは悲しい存在だ。ぼくは今まで一度たりとも鼻毛に感謝したことがなかった。ふとそのことに気づいて、少し凹んだ。
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いつもより雪が少なめの一月。ひと冬に降る雪の量は必ずどこかで帳尻が合う。長く暮らしているとそういう実感がある。だからこのあときっとどこかで大雪がやってくる。そんな覚悟のような感覚がある。もしも予想が外れて降らないのなら、それはそれで良いことだ。
冷えた夜の町を歩いて家にたどり着く。血流が目覚めたように脈を打つ。その感覚が好きだ。こわばった心身を緩めるように紅茶でぼくを溶かしてゆく。そのような時間こそが冬だと思っている。