【物語】二人称の愛(中) :カウンセリング【Session40】
※この作品は電子書籍(Amazon Kindle)で販売している内容を修正して、再編集してお届けしています。
▼Prologue
・Prologue05
▼Cast add&Index
・Cast add
・Index
※前回の話はこちら
2016年(平成28年)04月29日(Fri)昭和の日
今日は昭和の日で、激動の日々を経て復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いを致すと言う意味を込めた昭和天皇の誕生日であり、2007年(平成19年)から国民の祝日と制定された日でもある。またこの日から、世間ではゴールデンウィークが始まり、大型連休で帰省するひと達や旅行を楽しむひと達で交通機関は混雑し、人々の大移動が始まるのであった。
学はゴールデンウィークにも関わらず、何時ものように新宿にある自分のカウンセリングルームに向かったのだ。流石にゴールデンウィークと言うこともあり、学はゆっくりとした面持ちで、自宅から電車に乗り新宿にある自分のカウンセリングルームへ向かうことが出来たのだった。
学にとって自宅近くの最寄駅である川口駅から、学のカウンセリングルームがある新宿駅まで移動する時間は、とても苦痛な時間であった。それは学には電車のラッシュがとても苦手で、また混雑した車内に居るとお腹の調子を悪くすることが多かったからだ。
おそらく学自身、はっきりと気づいていないと思うが、彼の無意識の中では電車のラッシュの混雑がとても耐え難い苦痛で、自分の中に押し込めている感情が腹痛という形で身体の変化として現れ、学もそれには薄々感じていたのであった。しかしそれをわかっていながら、学自身それをコントロールすることなど出来ず、その時の学は、自分のこころを常に中道(ちゅうどう)と言う平常心に持って行く努力をしていたのだ。
そして朝10時からの今日子とのカウンセリングに備える為、学は何時もより少し早く『カウンセリングルーム フィリア』で、今日子が来るのを待っていた。すると今日子は約束の10時ちょうどに、学のカウンセリングルームを訪れたのだ。
今日子:「おはようございます倉田さん。宜しくお願いします」
倉田学:「おはようございます今日子さん。宜しくお願いします」
今日子:「今日からゴールデンウィークですが、お休みでは無いんですね」
倉田学:「僕はひとり者だし特に予定も無いので、それにクライエントさんには土日祝日は関係無いと思うし」
今日子:「心理カウンセラーってお休みが決まってないの?」
倉田学:「カウンセラーって必要とされてナンボだから、必要とされるのであれば可能な限りクライエントさんの為に尽くそうと僕は思ってるんです」
今日子:「そうなの・・・。わたし達探偵の世界と似ているわねぇ」
倉田学:「そうなんですか。探偵の仕事も大変だろうから」
今日子:「本当はわたし今頃、関西で普通のOLしていたと思うの」
倉田学:「どうしてそう思うんですか?」
今日子:「だって、あの阪神・淡路大震災が起きた時、わたし神戸市内の大学四年生で就職先決まっていたから」
倉田 学:「あの阪神・淡路大震災の時、今日子さんは大学四年生だったんですね」
今日子:「そう、ちょうど春から大手企業の神戸支店でOLをするはずだったのよ」
倉田学:「どうしてその大手企業のOLにはならなかったんですか?」
今日子:「あの阪神・淡路大震災の影響で、突然内定が取消されたの」
倉田学:「その後はどうされたんですか?」
今日子:「わたし達の一家、あの阪神・淡路大震災で家が倒壊し火災に。わたしは家族を失ってひとりになり東京に出て来たの。そして小さな出版社に就職したわ」
倉田学:「出版社ではOLとして働いていなかったんですか?」
今日子:「小さな出版社だったから、現場の取材とかひとりでやらされて。そこでわたしは大物と言われる『財政界』『経済界』『芸能界』のひと達を観てきたのよ」
倉田学:「僕には、とても縁遠いひと達なのでどういった世界か良くわからないけど・・・」
今日子:「汚い世界よ。殆どのひと達は『表の顔』と『裏の顔』を持っているわねぇ。そして『権力』と『お金』で、ひとを動かせると考えているひと達が多いわ」
倉田学:「今日子さん。あなたはどうなんですか?」
今日子:「わたしはだから出版社を辞めて探偵になったの。そして、そう言ったひと達のゴシップ情報(スクープ)を集めて高く売りつけてやるの」
倉田学:「それは何の為ですか? お金の為ですか? 真実を暴き出す為ですか?」
今日子:「両方ね。そう言うひと達の本性を掴み脅してやるの。そうすると こっちからお金を要求しなくても簡単にお金を出してくるの」
倉田学:「そのゴシップ情報(スクープ)を普通に公開すればいいじゃないですか?」
今日子:「わたしもこの仕事に命掛けてやってるの。命を掛けて集めた貴重な情報をタダで渡す訳にはいかないわ」
倉田学:「そうですか」
こんなやり取りを学と今日子は交わし、そしてこの日のカウンセリングが終わろうとしていた。この日のカウンセリングで学は、今日子から探偵になった経緯を聴くことができ、また彼女自身から積極的に話を聴くことが出来たので、彼女のこころの中の深い部分について、今後も話を繋げることが出来るだろうと感じたのであった。
帰り際、今日子は学に対し学が何故、心理カウンセラーになったのかを聴いて来たが、カウンセリングが終わろうとしていたのと、学自身もあまりそのことを話したくない部分であったので、それには触れずに今日子をカウンセリングルームの玄関先で見送り別れたのだ。
この日は夕方に、みずきのお店『銀座クラブ SWEET』に行くことに学はなっていた。それは先日の熊本地震により義援金を集めようと、宮城県 石巻市にいる『石巻駅前 Café&Bar Heart』店長のゆうからみずきへの電話があったからだ。
そしてこの話はLINEの『チーム復興』グループに流され、『チーム復興』グループ全員が熊本地震の被災者の為に、義援金を集めるのに奔走していたからだった。それは学も例外ではなく、学の数少ないツテの中で、じゅん子ママが一番協力を得られる可能性が高いと学は思い、先日じゅん子ママにみずきを連れて会いに行く約束を、今日の19時にしていたからだ。
学は夕方、少し早めにカウンセリングを切り上げ、みずきの待つ銀座へと向かった。そして18時頃、みずきのお店『銀座クラブ SWEET』に入って行った。
倉田学:「こんばんは倉田です。みずきさん居ますか?」
みさき:「あら倉田さん。お待ちしていました。今 、みずきママ呼んで来ますね」
少しするとみずきが奥のフロアから、学の居る入口近くにやって来て、そしてこう言ったのだ。
美山みずき:「倉田さん、お待ちしていました。今日は宜しくお願いします」
倉田学:「僕はみずきさんを、ただ『銀座クラブ マッド』のじゅん子さんに紹介するだけですから」
美山みずき:「倉田さんの紹介してくれるひとって、『銀座クラブ マッド』のママなんですか?」
倉田学:「ええぇ、そうですが」
美山みずき:「わたしこのお店を開く時に、一度だけ挨拶に伺ったことがあるんです。この銀座クラブ街を取り纏めてる銀座クラブ街の重鎮なんですよ」
倉田学:「そうなんですか。じゅん子さん、そんなこと言ってたかなぁー」
その時のみずきの表情はとても驚いた表情で、学が何故、銀座クラブ街の重鎮であるじゅん子ママと知り合いなのか、とても不思議がっていたのであった。そしてみずきはこう言ったのだ。
美山みずき:「倉田さん。どうして『銀座クラブ マッド』のママを知ってるんですか?」
倉田学:「僕の数少ない知り合いのひとりです」
学はこう一言だけ告げた。それに対してみずきは、これ以上もう聴くことはしなかったのだ。そして行き先が『銀座クラブ マッド』だとわかると、みずきは一段と気合を入れ、化粧や服装を念入りに準備し始めたのであった。この話はたちまちLINEの『チーム復興』グループのメンバーにも知れ渡り、ゆきやみさきそしてのぞみも一緒に『銀座クラブ マッド』に行き、じゅん子ママにお願いしに行きたいと言い出したのである。
ちょうどこの日は昭和の日で祝日であり、またゴールデンウィークの始まりの日でもあったので、お店のお客さんは少なく、みずきのお店『銀座クラブ SWEET』のスタッフに余裕があった。その為、『チーム復興』グループのメンバーであるゆきやみさきそしてのぞみからの一緒にお願いしに行きたいと言う強い要望を受け、みずきは彼女達を一緒に連れて行くことにしたのだ。
三人はみずきと同様に慌てて化粧や服装を念入りに着飾り、そして『銀座クラブ マッド『のじゅん子ママに会う為の準備を急いだのだ。時間はあっと言う間に、約束の19時に近づいて来たのだった。学はみずきそしてゆき、みさき、のぞみの四人で、同じ銀座8丁目にあるじゅん子ママのお店『銀座クラブ マッド』へと急いだ。そしてお店の中へと入って行った。
倉田学:「こんばんは倉田です。じゅん子さんは居ますか?」
若いホステス:「あら、こんばんは倉田さん。お久しぶりです。今日はどうされたんですか皆さんで?」
倉田学:「じゅん子さんにお話をしに来たんです」
若いホステス:「皆さん、倉田さんのお知り合いですか?」
倉田学:「はい。ちょっと、じゅん子さんに相談したいことがあって」
若いホステス:「それは何ですか?」
倉田学:「先日、熊本で地震ありましたよねぇ」
若いホステス:「ええぇ、ニュースでやってましたから」
倉田学:「その熊本地震の義援金についての協力のお願いに」
若いホステス:「そうですか。実はわたしの彼氏の実家、前にも話したように新潟で長岡市に住んでるんですが、11年前の新潟県中越地震に遭って」
倉田学:「そうなんですか。あの地震も被害が大きかったですよねぇ」
若いホステス:「そうなんです。だから、わたしに出来ることがあれば協力したいと思います」
倉田学:「ありがとう御座います。そう言えば、名前まだ聴いてませんでしたよね?」
若いホステス:「わたしの名前はれいなと言います。今度かられいなって呼んでください」
倉田学:「わかりましたれいなさん。じゅん子さんをお願いします」
れいな:「少しお待ちくださいね。いま呼んできますから」
こうしてれいなは学たちの元を離れ、奥の方へと向かって行ったのだ。そしてしばらくすると、じゅん子ママが姿を現した。
倉田学:「こんばんはじゅん子さん。今日は熊本地震の義援金の件で伺いました」
じゅん子ママ:「こんばんは倉田さん。こんな大勢でどうされたんでしょうか?」
するとすかさず、みずきがこう答えた。
美山みずき:「こんばんは美山みずきと申します。銀座8丁目で『銀座クラブ SWEET』を経営している者です」
じゅん子ママ:「あらそう。そう言えばあなた、前に一度だけ挨拶しに来たことあったわよねぇ」
美山みずき:「はい。わたしのお店を開く時に一度だけ挨拶をしに」
じゅん子ママ:「それで他の子達は何なのよ?」
美山みずき:「熊本地震の義援金のお願いを、どうしても一緒にお願いしに行きたいと」
じゅん子ママ:「しょうがないわねぇー、ここじゃあ何だから奥の部屋に来てちょうだい」
皆んなで:「はーい」
こうして学を始めとする皆んなは、奥の個室へと案内されたのだ。そしてじゅん子ママはこう切り出した。
じゅん子ママ:「今回のお願いは倉田さんからのお願いだったから話を聴かせて貰うことにしたんだけど、具体的にはどういったことなの?」
倉田学:「実は、僕はみずきさんのお店で出張カウンセリングをしています。そしてみずきさんを始め、今日来て貰った誰もがあの東日本大震災(3.11)を経験しています。そして特にみずきさん、ゆきさん、みさきさんは東北出身で震災に遭っているんです」
こう学が説明していると、みさきがこう言ったのであった。
みさき:「みずきママは宮城県 石巻市で、あの震災の津波で両親を失ったの。そしてゆきも姉を津波で亡くしたの」
するとゆきはこう言ったのだ。
ゆき :「みさきもあの東日本大震災(3.11)よる福島第一原発事故で故郷に戻れず。未だに埼玉県 上尾市で避難生活をしているの」
そしてこの後みずきが、熊本地震の被災者のひと達に自分達も何か出来ないか検討した結果、義援金を募ることにしたことを説明したのであった。これを聴いたじゅん子ママは、みずきにこう投げ掛けたのだ。
じゅん子ママ:「それで今現在、幾ら集まったのよ?」
美山 みずき:「それが30万円ぐらいしか」
これを聴いたじゅん子ママは、しばらく考えこう答えた。
じゅん子ママ:「わかったわ。倉田さんからのお願いだし、それにわたし 浅草出身なの。こう見えてもチャキチャキの江戸っ子よ! 折角だから 『銀座クラブ街』の街を挙げてやりましょう」
美山みずき:「本当ですかぁ」
じゅん子ママ:「ええぇ」
皆んなで:「やったぁー!」
こうして話はトントン拍子に進み、来月の五月に『銀座クラブ街』の街を挙げて、熊本地震の義援金を募ることと成った。そして、この五月だけ特別なイベントを開催することになったのである。それは『銀座クラブ対抗おもてなしコンテスト』と言う、名づけて『銀クラ おもてなしコンテスト(GINKURA –OMOTENASHI- CONTEST)』と言うものであった。まず各銀座クラブのお店から代表者を1名選び、あらゆる客層に対して如何に「良いおもてなし」が出来るかを競うと言うものだ。
つまり各店舗から代表ホステスを選出し、第三の店舗にホステスを数名配置し、「指名数」や「売上高」そして「おもてなし度合い」の評価を、第三者の銀座クラブのママが評価して行くと言うものであった。そして、その売上の一部を熊本地震の義援金とすることとなったのだ。勿論、ファイナリスト達が競う会場の場所は、銀座クラブ界の重鎮であるじゅん子ママのお店『銀座クラブ マッド』で行われることに成ったのである。
こうして学たちはじゅん子ママのお店を後にし、みずきのお店『銀座クラブ SWEET』に戻った。そしてこの後、みずきのお店から誰を『銀クラ おもてなし コンテスト(GINKURA –OMOTENASHI- CONTEST)』に出場させるか、検討されることと成ったのである。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?