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ただいマンゴーの奇跡
いつからだろう
帰宅する時
ただいマンゴー
という合言葉を使うようになったのは
人生
そんなに楽しいことばかりじゃない
誰にだって
泣きたい日もある
そんな日の夕方
玄関のドアを開け
重いカバンと一呼吸を置いてから
いつものように
ただいマンゴー
と
最後の力を振り絞れば
おかえリンゴー
と出迎えてくれる家族がいる
そして
ただいマンゴーなどと
すっとんきょうなご挨拶をしてしまった僕には
もうリビングで落ち込むことなんて許されない
疲れ果てた戦士のような父親を演じることなど不可能だ
どうにかして
おちゃらける道しか残されていない
気がつくとリビングで
それなりに笑っている
それなりにでも
笑えている
これが
ただいマンゴーの奇跡だ
もし
その日の晩御飯が
カツカレーだと決まっていても
ため息が止まらないほど
ダメージ強めな日には
ただいマンドリルなどと
一捻りしてみるのも効果的である
ただし
テレビへの視線を固定したままの家族から
おかえり
と
素で返されてしまうと
そこにあるのは絶望だけだ