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日本の家族百景 小鳥たちの家
夜が明ける前の静けさの中、森の木々は一つ一つ、まるで大きな生き物が寝息を立てるように揺れていました。小鳥の父親は枝の上で目を閉じ、すぐ近くで寄り添う家族の温もりを感じながらも、心に広がる不安に飲み込まれそうになっていました。「ここはずっと変わらないと思っていた。でも、この森も私たちの居場所ではなくなっていくのかもしれない」と、どこか遠くから迫り来る運命の足音を感じ取るように思いました。
日が昇ると、森のあちこちで重機の音が響き渡りました。まるで空の裂け目から不穏な風が吹き込むかのように、心がざわめき、安寧が引き裂かれていくようでした。森を見渡すと、彼方に見える森の入口近くの木々が次々と倒されていきます。父親鳥はその光景に胸を締め付けられるような思いに襲われました。「どうして、どうしてこうなってしまったのか……」と、心の中に湧き上がる葛藤を押し殺し、何とか家族を守るために何をすべきかを考えようとしました。
母親鳥もまた、巣の中で子どもたちを守りながら不安に苛まれていました。子どもたちはまだ何も知らず、枝の隙間から光が差し込む様子に無邪気に興味を示していましたが、母親鳥はそれがかえって切なく、無力感を感じずにはいられませんでした。「この子たちに、安全な居場所を残してあげられるのだろうか……」と、自問自答しながら、その小さな体に必死に覆いかぶさって守り続けました。
父親鳥は意を決して新たな住処を探すために森の奥深くへと飛び立ちました。空を見上げると、いつもは頼りにしていた青空も、どこか冷たく、無情に感じられました。どこへ行っても伐採の影は迫り、いつまたここも危険にさらされるか分からないという不安が心を支配します。奥へと進むたび、父親鳥の心象風景は、失われつつある森の姿と共鳴するかのように、暗く、重くなっていきました。
そんな中、森の奥で一本の古びた大木を見つけました。かつては壮麗だったであろうその木も、枝の多くが枯れていましたが、今の彼らにはそこが唯一の避難場所でした。荒々しい風がその木を揺らし、小さな巣の隙間から冷たい風が入り込んできましたが、父親鳥は家族を守るため、この場所を「新しい家」として受け入れるしかありませんでした。
日々の暮らしの中で、母親鳥は子どもたちに静かに語りかけました。「いつかこの森もまた、新しい命で満ちる日が来るのかもしれないわ。私たちもその時まで精一杯生き抜いて、歌を届け続けよう」。彼女の声には、苦しい現実と、それでも消えない小さな希望が交錯していました。森が再生する日を信じようとするその姿は、無情な運命に抵抗する小さな決意の現れでもありました。
やがて、日が重なるごとに、森のあちこちで小さな苗木が成長を始め、彼らの巣の周りにも新たな命の息吹が感じられるようになりました。その光景に、父親鳥もまた少しずつ希望を見出すことができました。かつての青空は戻らなくても、ここにはまた新しい未来が待っているのかもしれない。そして、自分たちがその森の再生の一端を担っているという思いが、彼の心に安らぎと誇りをもたらしました。
風が吹くたび、彼らの歌は森の奥深くまで響き渡り、森の苗木たちがその声に応えるようにそっと揺れ動いていました。
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