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本物と偽物って一体誰が決めるの?という話。

サラッとした話。それでいて、それほど軽くもない。
まるでラーメンのような。


突然だけれど、私には好きなカップ麺がある。これだ。

https://www.acecook.co.jp/products/detail.php?id=1412

飲み干す一杯 尾道」だ。

私は、醤油より味噌。そして味噌よりも塩とんこつが好きなのだが、カップ麺は断トツでこれが好きだ。いや、カップ麺と言っても、ラーメンのカテゴリだとこれが一番だが、蕎麦のカテゴリだと鴨だしが一番好きだ。好きなものがたくさんあるのは良いことだと思うので、それでいいことにする。

とにかく、背脂醤油の「飲み干す一杯 尾道」は、美味しい。醤油ベースであっさりした味わいでありながら、背脂のコクと旨味が共存して味に深みを加えている。醤油派閥でも味噌派閥でもなく、とんこつ派閥内の塩ラインに所属しているはずの私が、その大きな垣根を大胆に超えて、謀反人になる覚悟を持って虜になってしまうほどだ。

別にカップ麺専門家というわけでもないが、私は、割と色々な種類のものを試したりしている。その中でも、ちょっとお高いものでも、まぁ大体ほとんど400~500円とかだったりなので、気軽に手を出している。

そんな高いもの安いもの、色々な種類のカップ麺の商品を食べても、やっぱりラーメンの中ではこれが一番美味しい。「飲み干す一杯 尾道」は、たしか値段も100円ちょっととかなので、リーズナブル。味も良ければ値段も良い。さらに、あまり量を食べすぎたくないと考えている私にとって、ちょうどサイズ感のカップ容器。言わばコスパ的に最強、そしてプチダイエットした気分に浸りたい人(私です)にもピッタリだ。

ただ残念なことに、この商品は私の住む近所であまり売っていないので、たまにスーパーとかで見かけると、ついつい何個もまとめ買いしてしまう。そして、賞味期限切れスレスレになって、慌ててカップ麺を食べる日が何日も続いたりする。

ちなみに、こんなことを熱く語っていると、不健康まっしぐらに聞こえるが、カップ麺自体、実はそれほど食べないので、私にとってはご馳走とかご褒美のようなものだ。

え?カップ麺がご馳走とか、大丈夫・・?

そんな意見もあるかもしれないが、値段が高ければ高いほどいいものでもないのかな、とも思う。

たとえば、私は、カップ麺ではなく、普通にラーメン屋さんで食べるラーメンも好きだ。まあそれも詳しくはないのでほとんどチェーン店なのだが、「天下一品」とか、あとは「すみれ」とかのお店のラーメンが大好きだ。

天一はこってりラーメンが好きなのだが、たしか値段は800円とかそのくらいだと思う。すみれのほうは近所に無い(昔は横浜のラーメン博物館に店舗が入っていたので、年間パスを買って通っていたほど好きだった)ので、今では本当にずっと食べていないが、昔食べていた時には1000円とかだったはず。今は分からない。

正直、それらは安くはない。安くはないが、食べ終えた後には決まって「あぁ、めっちゃ美味しかった」と満足するので、結果的に高い買い物だったとは思わない。というか、高いお金を払ったことすら気にならない

他方で、会社に出勤していた時などは、お昼休みにラーメン屋さんに寄ることがあった。都内の所謂人気のあるラーメン屋さんのラーメンも余裕で1000円を超えてくる。だが、本当に申し訳ないけれど、「天一」や「すみれ」と比べてそこまで美味しいとも思えない。いや、美味しいは美味しいのだけれど、「これに1000円払うのはちょっと勿体ないよなぁ」と思ってしまう。

美味しいかどうかの判断をする上で、値段を意識してしまうということは、もしかしたら本当に美味しいとは思っていないのかもしれない。

もちろん、大大大前提として、結局は味の好みは人それぞれなので、一概に美味しい/美味しくないなんて決められないのだけれど。

で、何が言いたいかというと、先日、「天一」や「すみれ」のカップ麺を食べたのだ。

そしてそのお味のほうはというと、うん・・まぁ似ているね・・という感じだった。本当に申し訳ないが、やっぱり本物とはちょっと違うね、という感じがしたのだ。完全に店舗で出されるものを再現することなど難しいのは分かっているけれど。

何となく「本物」に似せようとすればするほど「偽物」になっていくようにも思える。

しかし、一体「本物」と「偽物」って、何が違うのだろう。

お店で食べるラーメンは「本物」?
家で食べるカップ麺は「偽物」?

私にはそうは簡単に言いきれないような気がしてならないのだ。

もし目の前に、都内の有名だと言われているつけ麺だとかラーメンだとかの人気店のラーメンと、「飲み干す一杯 尾道」のカップ麺があったとして、どちらを食べる?と訊かれたら私は迷わず「飲み干す一杯 尾道」を選択するだろう。

だって美味しいから。いや、都会で行列の出来ているお店のラーメンも美味しいけれど、「飲み干す一杯 尾道」に敵わない。個人の意見です。

そこに、本物だとか、偽物だとか、そんな基準なんて存在しない。本物だから美味しいとか、偽物だから不味いなんてこともない。


さて、ここから先は(これまでも大分そうなのだけれど)、かなり独断と偏見のギアを上げて書いてみる。

では、「尾道ラーメン」というものは、どうなんだろうと思っている。ここまで「飲み干す一杯 尾道」めっちゃ美味しいんですよ〜とデカい口叩いているくせに、実は私は、「本物」(敢えてこの表現を使う)の尾道ラーメンを食べたことがないのだ。

本物の尾道ラーメンというものが何なのか今一つ釈然としないが、想像しやすいモデルとしては、ご当地ラーメン、つまり尾道の町にある人気店・有名店のラーメン屋さんで提供されているラーメンがそれに当たる可能性が高いのかもしれない。

私は、これに関しては非常に恐れていることがある。

それは、もし「本物の尾道ラーメン」が美味しくても、あるいは、美味しくなくても、私の価値観が崩れてしまいかねないという恐怖だ。

仮に「本物の尾道ラーメン」を食べてみて、美味しかった場合、こういうことになるだろう。

それはきっと私が「尾道ラーメン」というものが好きだということになるのだろう。背脂だとか醤油だとか平打ち麺だとか、そういう要素の一つ一つが構成された全体像としての「ラーメン」それが好きだということになる。でもそれで「よかったね」とはならない。

なぜなら、恐らくそれ以降、つまり「本物の尾道ラーメン」を食べて以降の私は、あれだけ好きだと豪語していた「飲み干す一杯 尾道」を食べた時に、「偽物」感を抱いてしまうかもしれないからだ。

「いやぁ、カップ麺って、本物の尾道ラーメンとはやっぱ違うなあ。食べられたもんじゃない」なんて思うようになってしまったら、今までの私のカップ麺観がガラリと変わることになり、金輪際もうカップ麺自体を食べることが出来なくなるかもしれない

逆に、「本物の尾道ラーメン」を食べてみたら、美味しくなかった場合、きっとこうなる。

※美味しくないはずがないと思いますが、万が一の話です、関係者の方々、失礼を承知ですみません。

本物を食べて、美味しくなかったと感じた瞬間、じゃあ今まで私が食べてきた「飲み干す一杯 尾道」の「尾道」って一体どこのものなのだ、と戸惑ってしまうかもしれない。一体、私はどこのラーメンを食べて「美味しい美味しい」と言い、「いつか行ってみたいな、こんな町に」と思っていたのだ、と。

そうなったら、この記事で恥ずかしげも無く書いているように「私このカップ麺が好きなんですよね」なんて吹聴している一方で、商品名に記載されているこの地名が、まるで実在しない場所を指し示しているかのような不思議な気持ちに陥ってしまうことだろう。

そして何より恐ろしいことには、「本物」とか「偽物」とかいう以前に、「そもそもコイツの味覚おかしくね?」と日本中、世界中の人たちから嘲笑されて「味音痴」の烙印を押されてしまうのではないかと不安になる。

本来、尾道ラーメンは美味しいはずだ。そうでなければご当地ラーメンとしてここまで全国的に知名度が広がるはずがない。

しかし私がそれを非常識にも「美味しくない」と評価し、その一方でカップ麺の「飲み干す一杯 尾道」を大絶賛する。その時点で、客観的には「こいつ一体何言ってんだ」という事態になる。なぜなら、その背景には、一般論として「カップ麺」よりも「店舗のラーメン」のほうが美味しい、と考えられているからだ。(上でも書いた通り、私はそうだとは言い切れないのだが)

つまりそれは、私自身の味覚に対する信頼を失うことを意味する。言い換えれば、私が「うまいうまい」と食事を評価した時点で「実際はそうではない可能性がある」ということを証明してしまうことになる。本当に美味しい食事であったとしても、「味音痴」の自分がそれを絶賛することで、真逆の評価を下してしまうのだ。

たとえば、家族や親しい友人が振る舞ってくれた料理に対して、私は一切の感想を述べることすら許されないことになる。そこにあるのは、言えば地獄、言わなくても地獄だ。もっと言えば、ここまでベタ褒めしている「飲み干す一杯 尾道」の評価すらも怪しくなって、結果的に、販売元のエースコックさんに迷惑を掛ける事態にもなりかねない。

そういったわけで、私にはまだ、尾道の本当の味に触れる勇気は無いのだ


まあ、本物だろうが偽物だろうが、ラーメンだろうがカップ麺だろうが、美味しいならそれはそれで良いのよね。きっと。

そんなサラッとした結論でお開きにしてみる。ただやっぱりちょっとお腹いっぱいになるね。ラーメンだけに。おしまい。

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