トゲが刺さって学んだことの話。
とても久々に、手にトゲが刺さりました。
その時に思った話です。
痛っ。
気づいた時にはもう遅くて、左手の親指の先っぽあたりに違和感がやって来ました。
見れば、茶色い木片の小さなトゲ。大きさは数ミリくらい。
犯人は、9月は下旬にもなるというのにまだ暑かったのでこの時期でも多用していた扇子。それは、扇面にある絵柄は気に入っていたのですが、持ち手にあたる骨のところの加工処理が甘いのか、薄く細かい木がささくれのように盛り上がっていることが時折ありました。
普段はそこまで気にしていませんでしたが、この日は運悪く、その逆立っていた木に勢いよく触れてしまい、それはザックリと私の指の腹の奥にまで食い込んで折れてしまったのです。
最近は、トゲが刺さるなんて経験はほとんどありませんでした。トゲを見る機会自体は、子供が不用意にそこら辺のものを触って刺さってしまったりとかそういうくらいです。
その時は、よく洗った5円玉や50円玉を使って中央の穴の部分に患部を押し付けたりとか、はちみつを患部につけたりとか、なんかそういう民間療法的なものを試したりして、浮き出てきたトゲをピンセットで抜くというようなことをしていました。それでも抜けないのなら皮膚科に行くとかです。
今回も、子供に対してやるのと同じように私は、自分で自分の指に対して、硬貨の穴の部分を押し付けましたが、まあ上手くいかない。あれっ、おかしいな。子供の手に対してやる時にはすんなり取れることが多いのに。何度やってもダメで、ちょっと途方に暮れてきます。
実際、この時点でトゲが抜けていないので皮膚科に行くという選択肢もアリですが、治療代を考えるとケチな自分が出てきます。
「たかだかトゲくらいで病院に行くのも何だか癪だ」「そもそもお気に入りの扇子だと言ったってそこまで高価なものじゃない。せいぜい二千円もしないくらいのリーズナブルなもの。病院に行く交通費とか治療代とかを考えると、扇子のお金より高くなりそうで、どう考えても割に合わないでしょ」そんな思いから病院に行くのは躊躇われました。
しかしなかなか取れない。皮膚の奥まで刺さっているのか、ピンセットで掴もうとしても上手く掴めない。指で押し出そうとしても、全然トゲらしきものが出てこない。あまりに小さいトゲだからか、刺さった部分を指でグーッと押すと辛うじて茶色いものが指の皮膚ごしに浮かび上がってくるレベル。
ああ、もう、諦めようかな。別に「痛くて痛くてしょうがない」というほどのものでもないし。若干、違和感があるくらいに過ぎないわけですから。
そういえば、皮膚は何層にもなっていて時間が経てば古い角層が剥がれ落ちて新しい皮が生まれてくるというし。その過程でトゲなんて自然と抜けるんじゃないかな。
それに、もし自然と抜けなかったとしても、そもそもトゲなんて大したことないんじゃないか。人間の体は大きいんだし、たった数ミリ程度の異物くらい、許容できるんじゃなかろうか。そうなったら、もうコイツと一緒にこの先の人生を歩んでいく。それでいいじゃないか。
と思ったのも束の間、はるか昔子供の頃、トゲが刺さったままだといつしかそれが体の中を流れていって、最終的には心臓に刺さって死ぬみたいな迷信があったことを思い出しました。
いやいや、ちょっと待ってくださいよ。私はもう大人ですよ。もう四十代がすぐそこまで来てます。この人生経験を踏まえて言わせてもらえば、それは常識的に考えて無いっすわ。トゲが心臓にって。いやぁ、無い無い。無いよね。無いと言っておくれ。大丈夫だよね。ねえお願い頼む。
変な迷信のおかげで、手の違和感はますます大きくなります。
そんな時、たまたまお義母さんも一緒に傍に居合わせていたのでその事情を話したところ、「消毒した縫い針を使えば簡単に取れる」との新たな有力情報を得ました。
えっ、針?
それを刺すの?
怖っ…。
正直そう思いましたが、背に腹はかえられません。やれることは全部試したくなる性分です。後になって「ああ、これやっておけば解決したかもしれないじゃん」と後悔するのはすごく嫌なのです。
ネットで調べてみると、たしかにそういう方法もある。一応、今話題の ChatGPT にも訊いてみる。するとやっぱりこの方法も紹介されていました。
やるならもうこれしか無い。
いや、民間療法には変わりないので、不衛生な針を使ったり、傷ついた患部が化膿したりとか、リスクも高そうなので、推奨されているとは言い難いようです。でも、やっぱり自分は試さずにはいられない。後悔したくないのです。
というわけで、針をコンロの火で軽く炙り、消毒液でよく先端を拭いて、いざトゲの刺さっている患部へ…。
しかしトゲがあまりに小さく、指で周辺を摘んだりしなければ全く見えない。これではどこを針で刺したらいいか分かりません。
仕方ないので、トゲと思しき箇所の皮膚を、軽く針でこすります。まだトゲには到達しませんが、指の薄い皮が若干めくれてきます。
あっ、思ったより痛くない。そりゃそうか。よく蚊に刺されてあまりの痒さに掻きむしってしまうことがあるけれど、あれだって皮膚が破れて穴が開いているのと同じかもしれない。それに真夏に海に行って日焼けでもしたら、簡単に皮は剥けてしまうし。そう考えると、かるーく針でこすって皮を一枚めくったところで、そこまで痛いわけがない。
少し気が楽になった。まだ行ける、まだ行ける。
針を使って、患部の皮を少しずつ削るようにしていきます。でもあんまりやりすぎるとやはりちょっと痛い。当たり前だ、よくよく考えれば針で自分の指を刺してんだから。
慎重に針で探し、そうしてようやく、茶色くて細くて小さい異物が顔を出した。
それをさらに慎重にピンセットで摘み、そして無事にミッションコンプリート。
ああ、良かった。これで終わり。
なんか針で皮膚をほじくったところが軽く傷みたいになってて、なんだかトゲを抜く前よりも痛みとしては大きくなったような気がしないでもないけれど、でも違和感は無い。トゲが刺さっている感じは無くなりました。
うん、良かった。これで終わりです。
ところで、毎朝我が家では、NHKのEテレで放送されている「0655」という番組を観ていますが、そこで「勇者うさの大冒険」という歌が流れることがあります。
その歌詞で、こんなフレーズがあるのです。
まさにその通りだなと思うわけです。
トゲが刺さったことで新たな方法を見つけましたが、正直怖かった。ドキドキしました。でも勇気を出してやってみた。最初は上手くいかなかったけど、何度も試すうちに段々とコツが掴めてきた。ワクワクとまではいかないけれど、自信がついてきました。そうして、やっと出来るようになりました。トゲは無事に抜けて、より強い新たな自分になれたような気がします。
今回のことで得た教訓は三つありました。
なお、大事なことなのでもう一度書きます。
今回私が試した針を使ってトゲを抜く方法はあくまで民間療法であり、感染や化膿、傷が広がるリスクも高いものです。そのためこの方法をオススメしているものではありません。したがって、この記事を読んだからと言って試して失敗したとしても私はその責任は負えません。
何なら、私は今回トゲを抜いたことで違和感を無くすことができた代わりに、ちょっとした傷の痛みを得るというワケの分からん状況になりました。なので今もその患部には絆創膏を貼ってます。
そういうわけで賢明で裕福な皆様は、トゲが刺さった際には慌てず急がずケチらず病院に行ってくださいね。
以上、アホなオッサンからの役に立たないしょうもないお話でした。マジで安い扇子もう買わない。おしまい。
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