LLMの課題と脅威
前回の記事では、OWASPが公開した「LLM AI Cybersecurity & Governance Checklist」の概要を紹介しました。このガイドラインは、大規模言語モデル(LLM)などの生成型AIの導入に伴う新たな脅威とリスクに対処するための包括的な指針となっています。
今回の投稿では、ビジネスにおける大規模言語モデル(LLM)の活用がもたらす課題とリスクを解説します。LLMの使用はデータと制御の分離が難しく、非決定性によって異なる結果が生じ得るなど、特有の問題点を抱えています。これは、出力の一貫性と信頼性に直接影響を及ぼします。さらに、セマンティック検索の利用は従来の技術との大きな違いであり、これによるハルシネーション(虚構の出力)も懸念されます。
セキュリティ面では、LLMは攻撃者による新たな脅威の手段となり得ます。彼らはLLMを使って、検知を避けるマルウェアの作成や、説得力のあるフィッシング詐欺、ディープフェイクなどを容易に生成することが可能です。
一方で、LLMの機能を活用しないこと自体もリスクを伴います。競争力の低下、市場の変化への対応の遅れ、イノベーションの停滞など、ビジネスにとって重大な損失につながる可能性があります。
これらの課題とリスクを理解し、適切に管理することが、ビジネスの成長と持続的な競争力を維持する鍵です。
LLMの課題と脅威
LLMの利用には、従来のシステムとは異なる独自の課題が存在します。
LLMはテキストを用いて学習し、テキストを用いて制御するため、データ面と制御面を完全に分離することが困難です。
LLMの非決定性も課題の一つとして挙げられます。非決定性はつまり、同じ入力に対して異なる出力を生成する可能性があります。これは出力の一貫性と信頼性に影響を及ぼします。
LLMを用いた検索(RAGなど)は一般的にキーワード検索ではなくセマンティック(意味論)検索を用いるため、モデルのアルゴリズムが応答における単語の優先順位を決定します。この点は、従来の技術利用とは大きく異なり、非決定性と同じく結果の一貫性と信頼性に影響を及ぼします。
LLMの学習データに起因するギャップや欠陥から、ハルシネーションが発生する可能性があります。信頼性を高めるための制約を設けると、一方で機能性やユーティリティが犠牲になる可能性があります。
このようにLLMの利用には固有の課題がありますが、それ以外にもアプリケーションの構成、データの管理とデータ損失防止、アクセス制御などの従来からの課題も存在します。
LLMの利用を控えた場合のリスク
生成AIの分野の歴史の浅さと利用した場合のリスクを考え、LLMの利用をしばらく見送った方がいいと判断する企業も少なくないでしょう。
一方で、LLMの機能を利用しないことにも、競争力の低下、パーソナライズドコミュニケーションの課題、イノベーションの停滞、人的ミスリスク増大、人的リソース配分の非効率化などといったリスクが存在します。周りは皆積極的使っているのに自社だけが時代遅れに見られる可能性も低くありません。
LLMはビジネスにとって脅威でもあり機会でもあるため、さまざまな脅威を理解し、ビジネス戦略に組み入れることが重要です。LLMを利用するメリット、デメリットを慎重に検討し、ビジネス目標の達成を加速させるべく活用方法を見極める必要があります。
次回以降は、この問題に対するOWASPの提言や対策について具体的に解説していきます。LLMの恩恵を最大限に活かしつつ、リスクを適切に管理できるよう、体系的なアプローチが求められています。
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