漫才「腹立つ話」
A「どうもー、よろしくお願いしますー」
B「お願いしますー」
A「あのー、実は今ちょっと悩んでることがあってさ」
B「何?」
A「俺、エピソードトークがめちゃくちゃ苦手なんだよ」
B「ほう」
A「日常で面白いことなんてなかなか起きないじゃん?だからいつもしょうもない話しかできなくて困ってるんだよね」
B「あー、なるほど」
A「何か上達するためのコツとかあればいいんだけど…」
B「それならまずは、腹が立った話をするといいよ」
A「腹が立った話?」
B「普通に生活してればムカつくことの一つや二つ誰にでもあるでしょ?」
A「うん」
B「そういう話をしていくと自分の感情も乗せやすいから、小さな出来事でも自然に面白くなったりするんだよ」
A「あー、なるほど、確かにそうかもね」
B「…あっ、そういえば俺、ちょうど昨日めっちゃムカつくことがあってさ」
A「おお、じゃあちょっとお手本にしたいから詳しく聞かせてよ」
B「あのー、昨日バイトから帰る途中で近くの喫茶店に入ったんだけど」
A「うん」
B「俺が注文したコーヒーが10分以上経っても全然来ないのよ」
A「ほうほう」
B「それで店員さんが忘れてるのかなーと思ってもう一度注文し直したんだけど、そこからまた10分くらい全然来なくてさ」
A「うわー」
B「これはちょっとさすがに文句言おうと思って店員さんを呼んだんだけど、そこで凄いビックリすることがあって…」
A「ほう、どうしたの?」
B「めちゃくちゃ可愛かったのよ」
A「…え?」
B「その店員さんが、めちゃくちゃ可愛かったのよ」
A「可愛かった…?」
B「しかもなんか、事情を説明したらお詫びがしたいって言ってきてさ」
A「ほう…」
B「近くに知り合いのお店があるらしくて、そこでご馳走してくれることになったのよ」
A「へぇー…」
B「それで一緒にご飯食べながら話してたらすごい意気投合しちゃってさ、そのまま俺の家に来るってことになって」
A「うん…」
B「そこから二人でタクシーに乗り込んで自宅まで向かってたんだけど、途中で運転手さんが変なことを言い出すのよ」
A「変なこと?」
B「『こんな時間までお仕事ですか?ご苦労様です』って…」
A「ほう…」
B「それで男女二人で乗ってるのにそんなこと言うかな?と思って隣を見たらなんと、さっきまで話してたはずの店員の子がいなくなっててさ」
A「え…?」
B「しかもシートがびしょびしょに濡れてて…」
A「いや…」
B「怖くなってすぐにタクシー降りたんだけど、近くにお寺とかあってめっちゃ不気味でさ…」
A「あの…」
B「あっ、ちなみに全国にあるお寺の数ってコンビニより多いらしいよ」
A「いや知らないから…」
B「まあそれでそのまま歩いてたら小雨が降ってきてさ、急いでビニール傘買ったんだけど」
A「……」
B「早速差そうとしたらなんか空が青白く光ってさ」
A「……」
B「次の瞬間UFOが現れて色んなものを次々と吸い込んで…」
A「いやいい加減にしろよ」
B「え?」
A「さっきから何なんだこの話、ジャンルが全く分かんねえよ」
B「面白エピソードトークだけど?」
A「いや一つも面白くねえよ、面白くねえのに色んな事起こりすぎてて最悪だよ」
B「うーん…」
A「話の方向性がブレまくりなんだよ、腹立つ話なのか恋愛の話なのかホラーなのかSFなのか……あと途中で一瞬入った豆知識が一番意味分からないわ」
B「そんなことないと思うけどなー」
A「そんなことあるだろ」
B「っていうかお前、オチの手前で止めるなよ」
A「え?」
B「肝心のオチを聞いてないんだからそりゃどんな話か判断できないだろ」
A「ほう、じゃあ何?その話は最後どうなったの?」
B「えーっと、さっきのUFOに買ったばかりの傘吸い込まれて腹が立ったっていう…」
A「いや結局めちゃくちゃしょうもない話じゃねえか、あと多分恋愛の所から全部嘘だろ」