漫談「嘘」

僕ね、昔から嘘が嫌いだったんです。

小さい嘘でも大きい嘘でも関係なく

少しでも事実と違っていると気になってしまう。

春菊も同じです。

あれ入れた量に対して周りに与える影響でかすぎるでしょ。

少しも入れないで欲しい。

小4の時、スマブラをするためだけに家に来てた佐竹って奴がいて

面白くもない変なドッキリを仕掛けてくるし

ピザポテトを食べた手でコントローラー触るしで最悪だったんですが

そいつの好きな食べ物が春菊でした。

それを踏まえると、春菊の方がちょっと嫌いです。

万が一春菊農家が嘘付いてる所に出くわしたら、僕に連絡ください。

畑にヴェロキラプトル放ちますんで。

まあでも実は僕、自分の土地に小柄で俊敏な恐竜が侵入するよりずっと怖いことを先日経験しましてね。

あれは本当に恐ろしかった。

その日は後藤という友人と二人でカラオケに行ってまして

後藤は「キウイだけ食べてたら7キロ太った」みたいな

くだらない嘘をたくさん付く奴なんですけど

なぜかずっと薄っすら仲が良くて

よくポテサラの良さを語り合いながら夜を明かしたりしてたんですね。

それでその日もくだらない話で時間を潰してたんですが

1時間ほど経ったところから僕は

くるりの曲をくるりみたいな歌い方で歌うという

これぐらいの距離間の友達にしか見せられないはしゃぎ方をしてまして

岸田繁気分で3、4曲歌ったあと

この半径1.2mほどの内輪ノリの締めくくりとして

昔から一番好きな「ばらの花」という曲を入れたんですよ。

イントロに合わせて体を揺らし

鼓動を合わせ

変なタイミングでポテトを食べ

いよいよ歌い出し

「雨~~降りの~~朝で~~」

バタンッ!!!

…爆音と共に足元の床が抜けました。

僕はあの聴き慣れた穏やかなメロディーに鼓動を合わせたまま

体験したことのないスピードで落下し続け

マイク片手に失神しました。

いや、結構粘ったんですよ?

下の階に落ちたとかもうそういう次元の話ではなくて

底という概念の存在を疑いたくなるほど長い時間落ち続けてたんです。

もしでっかいバネの上に着地してたら

反動で東京タワーと目が合う所まで飛ばされていたと思います。

空中で会釈してたでしょうね。

そして僕は全身が冷たくなる感覚と共に目覚めました。

身体はびしょ濡れで、目の前にはバケツを持った男。

「ああ、映画とかで見るやつ…」「そう、それだ」

何だこのやり取りは、と思いました。

男はマスクをしていて顔は確認できません。

続けて「これは蛇口を捻ると大量に出て来て…」

と「水」の説明をしていましたが、それはさすがに聞いてませんでした。

両手と両足はそれぞれガムテープで固定されていて

よく見るとテープの色が2種類ある。

僕ね、こういうの気になっちゃうんですよ。

「あのー、これもしかして、ガムテープ途中で使い切っちゃって、急遽別のやつ用意して、それで固定させたんですか?それとも、あらかじめ予備は用意してたけど、1個目のやつは元々家で使ってた物で、予備のは今回改めて購入したから微妙に違う種類のやつに…」

「うるさい!黙れ!」

男は少し恥ずかしくなったのか、僕の話を遮り、本題に入り始めました。

「いいか?俺は嘘が何よりも嫌いだ。

だからあらゆる場所に罠を仕掛け、嘘を付いた人間を捕らえている。

そして今日の獲物はお前だ。

この顔面土砂崩れが!」

嘘と関係のない悪口を言われました。

「今顔関係ないし、そもそも俺がいつ嘘なんて付いたんだよ。

くるりの名曲歌ってただけだろ?」

「それが問題なんだよ。ここでもう一度歌ってみろ。」

「え?……雨~~降りの~~朝で~~」

「ふざけるな!今深夜1時だぞ!雨も降ってないし!」

「いや歌詞は仕方ないだろ」

「晴れ~~深夜~~1時~~だろ!」

「だろ!じゃなくて。歌詞を嘘って言うのは違うでしょ。」

「どんな小さな嘘も許せないんだよ!」

僕も嘘は嫌いですけど

いやー、さすがに厳しすぎませんか?

これでアウトなら後藤が無事なの意味分からないし。

でも大変なのはここからで

男は僕の拘束を解き、奥の部屋へと連れて行きました。

中には頭に布をかぶった人間らしきものがいくつかあって

「いいか?ここには3体の人形と、1人の正直者がいる。

そして人形からは嘘のエピソードが流れるようになっている。

これからお前には全員の話を聞き、嘘だと思った瞬間、そいつの頭を撃ち抜いてもらう。

もし失敗した場合、お前は人形の代わりにここに残ることになる。」

そう言って拳銃を渡してきました。

もちろん従いたくはありませんでしたが

「やらなければお前も正直者も殺す。あとMOROHAを無音にする。」

とヤバい条件を突き付けられたのでやるしかありません。

僕は腹を括って拳銃を受け取りました。

「さあ、まずは一人目だ!」

「えー、私は雲です。肌色の雲です。鋭利な気球に突き刺されて形が…」

バンッ!!!

「雲なわけないし、雲だったら別に撃ってもいいし」

「正解だ。では二人目!」

「えー、僕は屋上が好きでよく行くんですが、ある時6人組の男がやって来て、これが全員スナイパーなんですけど…」

バンッ!!!

「同じ場所にスナイパー6人いるの見たことないから。あいつら散らばってなんぼだから。」

「正解だ。では3人目!」

「えー、カバは牛なので…」

バンッ!!!

「カバは牛じゃないので」

「正解だ!おめでとう!これでお前は自由の身だ!」

「よかった、これでようやく帰れる…」

「まあ、最後にもう一人の話も聞いてみるといい」

「…えー、私は太い釘です。細いサメでもあります。小さい国でもあり…」

「あれ?全員嘘付きだ…」

「はっはっはっ、その通り!全てただの冗談だよ!」

そう言って男はマスクを外しました。

見覚えのある目、見覚えのある鼻、見覚えのある口。

その男は佐竹でした。

スマブラとドッキリと春菊が好きな佐竹でした。

「久しぶり!全部ただのドッキリだよ!」

ダメだ、全然面白くない。

このタチの悪さ、小4の頃から変わってない。

「お前ふざけるなよ?人に銃なんて撃たせて、何が楽しいんだよ?」

「まあ怒るなって!全部嘘だから!ジョークだよジョーク!」

「お前の嘘はしょうもないんだよ。昔から。これはもう、嘘が嫌いで正直に生きようとしてる人も、嘘を付きながら必死に生きてる人も、くだらないけどちょっと面白い、楽しい嘘も、全部馬鹿にしてることだから。みんなそのバランスで悩んだりしてるんだよ。それをお前はヘラヘラと。

あのー、信号機あるだろ?信号機が発明されたろ?大昔に。一生懸命開発して、努力して、やっと赤と青のあれができて、いざ取り付けましたと。これでやっと人の役に立つかもしれない、より安全に過ごせるかもしれない、さあちゃんと機能するのか、ってちょっと離れた所から開発者が見てるわけよ。そこで最初に来たのが通りすがりのお前よ。お前がやってるのは、そこで、歩道からは出てるけど車とは接触しない、ギリギリの中途半端なエリアで、急にタップダンスしだしたみたいな、何それ?何?何がしたいの?みたいな、そういうことなんだよ。」

少年時代から蓄積されていた鬱憤が爆発しすぎて

自分でも途中から着地点を見失っていましたが

最後に佐竹が「分かるわー」としょうもないトーンで言っていて

結局それが一番腹立ちました。

純粋にゲロ吐きました。

それから僕は解放され、口元を拭き、地上へ戻りました。

そして、この事をどう説明するか考えながら部屋のドアを開けると

後藤がやたらと小さい声でブルーハーツを歌っていて

「おお、戻ったか。お前も静かにしろよ?」

「え?なんで?」

「隣の部屋でカモノハシの赤ちゃん寝てるから。」

……良いわー!俺後藤の嘘好きだわー!

「だったらそもそもブルーハーツじゃないだろ。もっと、ほら、ハナレグミとかさ。選曲の時点で工夫しろよ。」

「まあそうなんだけどさ……あれ?お前なんで全身ビショビショなの?」

「あー、これね、ちょっとジュゴンのヤンキーに絡まれちゃって。」

「そうか、この辺治安悪いもんな。」

くだらないなー。

クソみたいにくだらなくて落ち着くわ。

やっぱり、どうせ付くならくだらない嘘の方が良いですね。

そういえば、今日も皆さんに1つだけ嘘を付いてしまっていまして

一番好きな曲、くるりの『ばらの花』って言いましたけど

本当は松浦亜弥の『桃色片想い』です。

格好つけました。

すみません。



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