中世の騎士物語

中世の騎士物語とは、中世ヨーロッパに発展した文学のジャンルで、騎士道をテーマとする韻文や散文の物語のことです。

中世の騎士物語は、11世紀頃からフランスを中心に発達しました。それまでのラテン語ではなく、フランス語やスペイン語などのロマンス諸語で書かれたという点も重要です。これらの言語は、ローマ帝国の衰退後にラテン語から派生したもので、ロマンス(romance)という言葉は「ローマ風の」という意味があります。そのため、中世の騎士物語はロマンス(romance)とも呼ばれました。

中世の騎士物語は、大きく分けてブルターニュもの、フランスもの、ローマものの三つのジャンルに分類されます。(ジャン・ボデルによる分類)

ブルターニュものは、アーサー王とその円卓の騎士たちを題材にしたもので、『ランスロまたは荷車の騎士』や『トリスタンとイゾルデ』などが有名です。

  • 『ランスロまたは荷車の騎士』は、クレティアン・ド・トロワが12世紀に書いた韻文の物語です。 アーサー王の円卓の騎士ランスロと、アーサー王妃グィネヴィアとの禁断の恋を描きます。 ランスロはグィネヴィアを救うために、名誉を失うとされる荷車に乗ることを決意します。

  • 『トリスタンとイゾルデ』は、ケルトに起源を持つとされる古代の恋愛物語です。 12世紀にフランスで韻文の物語としてまとめられ、13世紀には散文の物語としてアーサー王物語に組み込まれました。 騎士トリスタンと、主君マルク王の妃イゾルデが、媚薬を飲んでしまったことで激しい情愛に囚われる悲劇を描きます。

フランスものは、シャルルマーニュとその騎士(パラディン)たちを題材にしたもので、『ローランの歌』や『狂えるオルランド』などが有名です。

  • 『ローランの歌』は、11世紀に成立した古フランス語の叙事詩です。 カール大帝の甥である騎士ローランが、スペイン遠征でムーア人と戦い、英雄的な最期を遂げる様子を描きます。 ローランは自分の角笛オリヴァンを折りたくないという理由で援軍を呼ばず、多勢に無勢で戦って散ります。

  • 『狂えるオルランド』は、ルドヴィーコ・アリオストが16世紀に書いたイタリアの叙事詩です。 全46歌からなる大長編で、中世騎士道物語の到達点とされます。 アーサー王物語やローラン伝説などをもとに、魔法や怪物などが登場するファンタジー的な要素も盛り込まれています。

ローマものは、アキレウスやアレクサンドロス大王、カエサルなど、ギリシア・ローマの英雄を題材にしたもので、『テーバイのロマンス』や『ピロメーラー』などが有名です。

中世の騎士物語は、16世紀までに最盛期を迎えましたが、その後は下火になりました。17世紀には、セルバンテスによる騎士物語をパロディにした小説『ドン・キホーテ』が登場しました。 この作品は、騎士道物語に熱中した老人が現実と空想を混同して奇妙な冒険に出るという内容で、騎士道物語への風刺と批判が込められています。

以上が、中世の騎士物語についての簡単な解説です。このジャンルは、現代のファンタジーや恋愛小説などに多くの影響を与えました。

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