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【キャリア論】『情報系学科=IT土方予備軍』と思われていた時代もありました



かつては人気のなかった情報系学科

そろそろ30代の半ばを迎えようかという筆者であるが、自身が大学進学した2010年ごろ、情報系学科・学部はあまり人気がなかった。

かつてのITバブルの熱狂は忘れ去られ、多くの場合は単に工学部の1学科の扱いであることが多かったと記憶している。

今は情報系学科の人気が高まり、GAFAというビッグテック企業を指した名称もかなり一般的になったし、プログラマーという職業が小学生のなりたい職業の上位にランクインするようになり、国公立・私立ともに数々の大学で情報系学部および学科が作られるようにもなった。

この状況は2005~2010年あたりの状況と比べると隔世の感がある。


『IT土方』という烙印

今でこそ使用頻度は減ってきたが、かつて2ch(現.5ch)等でよく使われていた言葉に『IT土方』というものがある。

これは、特に多重請負構造が一般化したシステムインテグレータ(SIer)企業もしくはSES企業に所属し客先常駐で働くエンジニアたち、とくに下請け孫請け等のプロジェクト下流の立場で、劣悪な労働環境や長時間労働に苦しむ人々を指して呼ぶことが多い。

Web系企業や外資系IT企業が台頭したことで以前ほど注目されなくなったが、「IT土方」の問題こそが、かつてIT業界と情報系学科が不人気だった主要因なのである。

以前のIT業界の就職先は、野村総研・NTTデータ・IBM・富士通・NECといったSIerが主流だったため、2000年代前半あたりまではIT業界≒SIer業界と言っても過言ではないほどだった。

以下の偏差値表が2ch界隈でSIer業界を語るうえでよく使われていた(今でも使われるのだろうか?)

━Sランク━
Oracle Cisco
NTTデータ SAP

━A+ランク ━
アクセンチュア 野村総研(NRI) 日立製作所 富士通

━A-ランク ━
日本IBM 富士ゼロックス NTTコミュニケーションズ

━B+ランク ━
NEC 日本HP 新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL) 日本総研(JRI) 大和総研(DIR)

━Bランク ━
NTTコムウェア 伊藤忠テクノソリューションズ(CTC) 三菱UFJインフォメーションテクノロジー(MUIT) 電通国際情報サービス(ISID)

━ B-ランク ━
みずほ情報総研(MHIR) 日本ユニシス アビームコンサルティング 日立ソリューションズ(HISOL)

━ C+ランク ━
JSOL 農中情報システム SCSK 日立システムズ(HISYS)

━ Cランク ━
NECソリューションイノベータ ニッセイ情報テクノロジー JR東日本情報システム(JEIS) 東洋ビジネスエンジニアリング

(以下略)


典型的なSIer企業だと専門分野が情報系かどうかに関係なく手当たり次第に人をかき集め、理系ではない文系の大学生たちさえも大量採用し、教育はそこそこに開発現場にぶち込むというやり方であった(おそらく現在もそうだが)。

事前に候補者のIT分野への適性の見極めを行わずに採用するわけだから、当然技術レベルが高いわけもなく、途中でついていけなくなり早期離職する人が続出する。

途中で脱落する羽目になった人間が、SIer企業そしてIT業界そのものに対して怨嗟を抱いたとしても不思議ではないし、こうした人々が『IT業界はやめとけ』という言説を一時期ネット上で盛んに唱えていた可能性が高い。

こうしたSIer業界特有の多重下請構造、長時間労働、低い技術力、人海戦術、大量採用・大量離職という、全くもってイケてない体制のもと働かざるを得ないエンジニアたちを指して『IT土方』という言葉が侮蔑的に使われてきたのである。


『プログラミングは誰でもできる』の勘違い

IT業界≒SIer業界という時代が続き、文系出身者でも普通にSIer企業に就職してプログラミングに関わる仕事があてがわれたことにより、一部で『プログラミングは誰でもできる』という誤った認識が広がる原因となった。

SIer企業の悪弊としてプライムとしてプロジェクト管理を担当する人が最もエラくて、実際にコードを書くのは末端社員や下請企業の仕事であるということも、この認識に大きく影響したと言えるだろう。

また大手SIer企業の社員・元社員たちがSIer業界目線のIT技術を軽視するような言説をネット上等で広げ、それを聞いたエアプ勢やパソコンの大先生たちが尾ひれをつけて情報を再拡散していたと思われる。

これが『IT業界といえばIT土方』『コーダーは下っ端、負け組』というかなり極端な言説が真実であるかのように認識されてしまった主な理由であろう。

確かにPCでIDE(統合開発環境)を立ち上げて、初歩的なコードを書くことは誰でもできるのだが、それだけでエンジニアの仕事が成立するわけではない。

十分な機能・動作性能・保守性を備えたよいシステムを作るためのコーディングともなると格段に難易度は上がる。データベースやアーキテクチャの設計をとっても簡単とは言い難い。

これらの仕事は十分に素質があり、実務経験を積んだ人間でなければできない仕事である。きちんとしたコードを書けるということは立派な専門的スキルなのである。

このような認識に立てば、『プログラミングは誰でもできる』というのは確実にウソである。単にPCを使うのと、エンジニアと呼ぶにふさわしい仕事をするのとでは相当大きな開きがある。

特に、「プログラム言語」(※正しくは"プログラミング"言語)とか、「プログラムを書く」(※本当に分かっている人は"コーディング"という言葉を使うはず)といった言葉遣いを平気でするような連中の言うことは、エアプ勢か不勉強なエンジニアのどちらかなので信用してはいけない。


なぜ情報系学科に進んだのか

自分がなぜ、2010年ごろIT土方という問題を認識しながらも情報系学科への進学を選んだのかと言えば、コンピュータ自体に興味をもっていたことと、『今後はIT技術の必要性がさらに増す。決してIT業界が衰退することはない』と考えたことによる。

そもそもIT土方という、ITを馬鹿にしたような言葉が嫌いだったし、『誰が何を言おうと、これからは全てがITの時代なんだ!』というのが2010年ごろの当時の自分の考えだった。

IT土方にせよそれは日本のSIer業界の構造的問題であって、SIer業界に就職さえしなければ回避できる問題と思っていた。15年経った現在では、当時の自身の考えは恐らく間違っていなかったと実感している。

自身がもしも『IT業界に就職=IT土方一直線』という当時の2ch脳丸出しの考えでいたならば、今のソフトウェアエンジニアとしてのキャリアは無かっただろう。

逆に言えば、現在の流行や周りの意見ばかりを気にして将来の専門分野を決めてしまっていれば、チャンスを掴み損なう結果になっていたかもしれない、ということである。


現在の流行で自分の専門分野を決めないこと

今高校生や大学生の人たちが自身のキャリアを決めるにあたってはネットの情報やバズワードに踊らされるのではなく、自分が興味を持てそうな分野はなにか?ということはもちろん、10年先20年先には何が社会に必要になるか?という長期的視点をもつことが必要だろう。

IT業界を例にとってみると、2024年現在でこそ生成AIがもてはやされているが、今後はAI企業の生き残り競争が一巡するのを待たず、早晩このブームも収束することだろう。

なぜそう言えるかと言えば、この数年だけでいくつものブームが生まれては消えていったからである。

生成AIが流行する少し前までこれからはメタバースやWeb3.0と言われていたし、そのまた前にはデータサイエンスやビッグデータ、さらにそのまた前には仮想通貨(暗号資産)やブロックチェーンが流行の中心だった。

これらの分野においては実需のある部分は定着したが、流行のフェーズはずっと前に終わり、話題に上ることはほとんどなくなった。

この十数年というもの、IT業界の起業家やベンチャーキャピタル(VC)関係者が広く投資を集めるためにバズワードを生み出し、誇大広告ともいえるレベルの輝かしい将来像を振りまくのはもはや恒例行事である。しかし、こうした人たちのポジショントークを真に受けているようではいけない。

キャリアを考える上では、自身の適性はもちろん社会の流れを見極めることが必要であり、早期段階で専門分野を決め打ちするような必要はない。

現在流行しているかどうかを基準にしてキャリアを選択してしまうと、数年後には流行が終わって伸びしろのなくなった分野で戦う羽目になるかもしれないのである。


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