平凡を掴み続ける難しさ/『その夜の侍』感想
こんな堺雅人は観たことがない。
ラスト30分、雨のシーンからは目が離せなかった。汚くて気持ち悪くてかっこ悪い。なのに人間味は丸出しで、どうしようもなく無様で力強い。
「平凡ていうのは、全力で築き上げるものだと思うんですよ」
ある場面で新井浩文が呟くこの台詞は、作品を象徴しているし、脳裏に深くこびり付いた。
僕らの身近にある一見ありふれた平凡だって、きっとそんな簡単に手に入れたものではない。容易に保持できてるわけでもない。
本作はライト層の受けは期待できないが、観る者に小さくない力を与えてくれる。
生活に埋れてしまっていた生命力と、理性に抗えなかった衝動性が、生臭さと共に剥き出しになって存在する。
衒いのないユーモアが場違いのように顔を出すのも効いている。新井浩文、安藤サクラ、田口トモロヲなど脇の役者陣、さらには音楽までが作品が放つ臭気に馴染んでいた。
監督の赤堀さんは演劇畑の人で、原作は本人主宰の劇団で発表している。赤堀さんの舞台は観劇経験もあるので、テイストはそれなりに知ってるつもりだが、その味は映画でも薄まることなく出ていたように思う。
初監督作としての背伸びや空回りはもちろん、思わせぶりに風呂敷を広げるようなこともしていない。撮りたいものを撮りたいように、必要以上の作為は持ち込まず撮ったのが伝わってきた。
人生も物語も、予定調和にはならないし、単純でもない。人なんてみんなどうしようもない。他人がすべてを推し量れるほどわかりやすく生きてもいない。それこそがリアルな生き様だ。
覚束ない人間たちの生き様が、スクリーンの中にはたしかにあった。
公開当時、渋谷ユーロスペースで鑑賞
サポートが溜まったらあたらしいテレビ買います