
木村拓哉はヒーローがよく似合う/『マスカレード・ホテル』感想
木村拓哉×長澤まさみの共演で話題となった映画『マスカレード・ホテル』。原作は東野圭吾のベストセラー小説。
<あらすじ>
都内で3件の殺人事件が発生した。
現場にはいずれも不可解な数字の羅列が残されていたことから、連続殺人事件として捜査が開始される。
刑事の新田浩介(木村拓哉)は、その数字が次の犯行場所を予告していること、そしてホテル・コルテシア東京が4件目の犯行場所になることを突き止める。犯人を見つけるべくホテルへの潜入捜査に乗り出した新田は、優秀なフロントクラーク・山岸尚美(長澤まさみ)と衝突を繰り返しながらも、事件の真相に近づいていく。

安定の東野圭吾原作ミステリーにこれだけの豪華キャストが揃えば外しようもない。2時間のスペシャルドラマでも良くない?と言ってしまえばそれまでだが、老若男女問わず無難に楽しめる内容となっている。
トリックにしろ伏線にしろ、衝撃を受けるような意外性は無いものの、本作が一定の満足度を確保できるのは、本格ミステリーというよりエンターテイメントとしての期待に応えているものだからだろう。
それを支えているのは木村拓哉や長澤まさみの華であり、脇を固める贅沢なキャスト陣の功績に他ならない。企画の段階で80点以上を狙える作品。
こういうのでいいんだよ、キムタクの魅力

主演の木村拓哉はエリート刑事でありながらホテルのフロントクラークに扮する潜入捜査官。どちらの姿も大きな違和感を与えずに演じている。すこし前に某バラエティ番組で「何やったってキムタクって言われる」などと自嘲気味に語っていたことが話題になった彼。本作でも一本筋の通ったヒーローという意味では既視感は十分。
でも、キムタクはそれでいいと思うのだ。
何をやってもキムタクの、そのキムタクを演じられるのは彼しかいないし、彼にしかないヒーロー性を期待されるのは、役者として大きな価値があることの証明。主演としての器、華、絶対的な正義としての信頼感、それらを一身に背負えることができ、前提にある期待にも真摯に応えられるのは木村拓哉しかいない。求められ、期待される役者像があるのは幸せなことだ。
田村正和なんかもそうだと思う。何をやっても古畑任三郎といわれていた。それは彼が作り上げた役者としての価値であり、魅力。そうなりたくたってなれない役者、価値を見出してもらえない役者なんてごまんといる。
だから、木村拓哉はこれでいい。俺はかっこいいキムタクを見たいし、なんとかしてくれるキムタクが見たい。ドラゴンボールの孫悟空が必ず最後には敵を倒してくれるように、彼はずっとヒーローでいい。
ドラマ『教場』で見せた新境地をふまえれば、もはや彼が「何やってもキムタク」からはとっくに超越しているのは明白なのだが。教場での渋味のある芝居は緊張感もあって素晴らしかった。
何度も見惚れる長澤まさみのヒロイン性

この映画のヒロインは長澤まさみ。ホテルマンとしての誇りを持つ優秀なフロントクラークを見事に成立させている。ハマり役といってもいい。
身長も高く、長い手足を持つ彼女が制服姿でビシッと姿勢正しく立っているだけで画面が締まる。凛とした佇まいの中に繊細さと芯の強さを内包するその魅力は、ガッキーでも戸田恵梨香でも綾瀬はるかでもなく、やはり長澤まさみだからこそといえる説得力を持っている。
その美貌には思わず溜め息が漏れてしまう。スカートから伸びる美脚も素晴らしい。キムタクがヒーロー性を背負える役者なら、彼女もまたヒロイン性を背負える女優だ。それはセカチュー以降ずっとで、近年は円熟味を増してきた感がある。
ほかのキャストも実力派ばかり

豪華キャストの中でも、ひときわこの映画への貢献度が高い俳優として挙げられる小日向文世と松たか子。HEROじゃん、コンフィデンスマンJPじゃんっていうツッコミはさておき、この2人を起用した時点で一定の評価は担保されたといえる。そもそも役柄が重要だったとはいえ、それを差し引いてもさすがの安定感。今後も続編があるとしたら小日向文世とキムタクの絡みは気になるし、とてもいいコンビだと思う。
松たか子に関していえば言うことなし。どれだけ邦画は彼女に支えられているんだろう。ドラマ『HERO』のときは今回の長澤まさみのような立ち回りだった彼女が、本作ではキムタクと新鮮な絡みを見せる。松たか子はちょっとうますぎて、ピュアな僕は観賞中すっかり翻弄された。
そのほか、役者陣での見どころはあっちゃんこと前田敦子と勝地涼の共演や、明石家さんまの友情出演、ビューティフルライフは遠い記憶…キムタクと並ぶとワクワクする渡部篤郎。
続編も楽しみ
原作小説はまだエピソードがあるため、今後シリーズ化は必至。すでに続編にあたる『マスカレードナイト』の撮影がクランクインしたニュースも入った。本作最後の木村拓哉×長澤まさみのシーンは美しい予感を漂わせていて良かったし、オリジナルサウンドもスケールがあって耳に残る。
疑うことが仕事の刑事と、信じることが仕事のホテルマン。
外に出れば誰もがつけているはずの仮面。
その仮面を剥がす仕事も、仮面のまま人をもてなせる仕事も、
世の中どちらも必要だろう。
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