2か月半ぶりにコンサートに行って、やっと正気に戻ったらしい話
先月の26日の夜、タイトルにも入れた通り、2か月半ぶりにコンサートに出かけました。
千葉県で、夜のコンサートがあるのは、かなり珍しいんです。ポップス系なら、まだ見かけますが、クラシック音楽となると、皆無に近い。実際、私の最愛のマエストロ・山下一史さんが音楽監督を務める、千葉交響楽団のコンサートは、9割9分が午後の早い時間です。今年度は、私が知る限りは一つもありません。
山下さんがシェフになられてから、何度か夕方とかに開催されたこともあります。けれど、そういう時は、たいていお客さんがあまりこないんですよね。おそらく、ファン層の高齢化だったり、交通網の問題があるのでしょう。都市部ならば、夜9時以降でも電車の本数は充分ありますけれど、千葉市から南の方面だと、格段に本数が減るし、連絡も悪くなり、終電も早いようです。夜出かけるのをためらう方も少なくないのでしょう。
年に数回、君津とかにコンサートのために行きますが、確かに、駅までのアクセスがよろしくないんですね。
「これじゃあ、夜のコンサートとかに出かけたら、泊まらなきゃ厳しいわなぁ」
そんなことをいつも痛感します。
そういう千葉県ですから、夜に千葉市にある千葉県文化会館でコンサートがあるのは、本当に珍しいことでした。まぁ、9月の26日は平日でしたから、夜でないと、逆にお客さん集まらなかったでしょうけれど。
ただし! このコンサートは、私の愛するマエストロと千葉響のコンサートではありませんでした。マエストロ・井上道義と、新日本フィルハーモニー交響楽団とのコンビだったんです。
今年、文化庁が「オーケストラ・キャラバン」と銘打ったイヴェントを立ち上げたんですね。これは、コロナ騒動で疲弊するオーケストラへの救済措置の一環でしょうし、音楽を求めるファンへの贈り物を意図したもののようです。今、文化庁の長官は作曲家の都倉俊一さんですので、音楽業界が大変なことや、音楽が”不要不急”ではないことを、よくご存じです。疲弊している社会へ文化の力を注ぎこもう、との発想かもしれません。
”オーケストラ・キャラバン”というくらいですから、地元ではないところに演奏旅行ツアーをする、という企画も観られました。山下さんは、今年度から3つのオーケストラのシェフをお務めですが、この3つのオーケストラを率いて、7月末に大阪~名古屋のツアーをなさいました。千葉県が抜けているってのが、私には複雑でしたがねぇ。
で、どういういきさつがあったのかは、私にはわからないですが、千葉県には、井上さんと新日本フィルが、ピアニストの小山実稚恵さんをソリストにして、いらしたわけです(ほかの千葉の街にも、いくつか来るようですが、私は参加しないので詳細は不明です)。このコンビは、千葉の前に、2つの地域をツアーしてらしたようで、千葉県は終着点だったようです。
プログラムは、小山さんのピアノで、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番と、メインが、リムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」。
ラフマニノフは、私がそれほど好きではないので、詳しくはありません。
ただ、ソリストの小山さんは11年前、私が初めて仙台フィルハーモニー交響楽団と山下一史を聴いたコンサートでも、ソリストだった方です。小山さんを聴いたのもその時が初めてでしたが、大嫌いなショパンのコンチェルトを、情熱的に演奏されて、私の中のショパンのイメージが大きく揺らいだことを今も覚えています。
2か月半ぶりに聴く、ライヴのコンサート。最初の一音が井上さんのタクトで響いてきたとき、私の全身に電流のような衝撃が走りました。加えて、小山さんの流麗で、エネルギッシュなピアノにすっかり惹き込まれてしまったのです。心身が熱くなってきて、身内からワクワクする思いが湧き上がってきます。
井上道義さんを聴くのは、これが2度目ですが、聴衆の眼を耳と一緒に舞台にくぎ付けにする力をお持ちです。それなりにいろんなマエストロを聴いていますけれど、井上さんほど指揮されながら、ご自身も情景の一部になって演じている要素をお持ちの方は、ほかに記憶がありません。山下さんも指揮台のうえでよく動かれますが、井上さんの激しさを目の当たりにすると、おとなしいように感じたものです。
ただ。時間が経つにつれて、私の中で、「オーケストラ、おとなしくないか???」と、感じるようになりました。マエストロと小山さんに耳と目を奪われて、しばらくは夢中だったのですが、だんだん、物足りなくなってきたのですね。
新日本フィルが、井上さんと小山さんに大きな敬意を払っていることは感じたのですが、それのためか、それともツアー最終日の疲れなのか、オーケストラが引き立て役に回っているように、私には聴こえてきました。
これは、コンサート後半のメインの「シェエラザード」で、はっきりしました。マエストロは、変わらずエネルギッシュだけれど、オーケストラはそれに呼応していない。この作品は、山下さんの十八番の一つでもあり、千葉響とで2回聴いていますし、仙台フィルとはCDも出しているので、私には非常になじみ深いのです。
それだけに、期待もしましたが、私には迫力に欠ける演奏でした。この作品では、コンサートマスターが、物語の主人公・シェエラザード姫のテーマを何度も響かせるという見せ場があります。とてもつややかで、高貴な雰囲気をイメージさせるメロディなんですが、この時のコンサートマスターの演奏には、私を魅了する色気はなかったですね。
「う~む・・・・・」
マスクの中で、小さくそううなりながら、ハッとしました。
「あ! 私の感性、生き返ってきてる!!」
♬一つ読めない素人ですから、コンサートでの演奏に批判的な視線を投げたいわけではないのです。けれど、2か月半ぶりに、ライヴでの演奏に触れて、私は私本来の感じ方というか、感性を取り戻してきたのですね。
必ずしも、ひどい演奏というわけではない。けれど、くたびれている私が心底聴きたいと願うものとは、いささか違っていた。そこに気づかせてくれたのですね。私を心底喜ばせるものではなかったけれど、眠り込んでいた感覚を叩き起こしてくださったことは、間違いありません。
アンコールは、ハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」から「ワルツ」。これは、マエストロなりの今のコロナ騒動への皮肉も込められているんですよね。「仮面舞踏会」の”仮面”は、英語で言えば”マスク”です。聴き手にマスク着用を強制している今の風潮への、井上道義流の批判でもあるのですね。
井上さんは、ここで、「ラデツキー行進曲」の演奏の時のように、聴き手に手拍子での参加を促し、会場に一体感と楽しい雰囲気を作り出しました。このサービス精神には脱帽です。山下さんも、聴き手へのサービス精神は素晴らしいのですが、マエストロ・井上道義は、ちょっと上の感じです。結果的に、このアンコールが一番印象的でしたねぇ。
このコンサートが刺激になって、自分がそれまでの2か月半、どれほどネガティヴになって、自分を追い込んでいたのかも痛感したのです。このコンサートには、井上さんの指揮だから出かける気になったのでしたが、正解だったようですね。
やはり、”生きた音”に触れるのは大切です。私は、そう思います。
さぁ、生き返りつつある私、この週末は、今度こそ、最愛のマエストロと千葉響の定期演奏会に出かけます。ここで、完全に復活と参りたいものですね。