海生ヒドロ虫からヒドラへ、そして、ヒドラから腫瘍発生へ。
①海生ヒドロ虫の知見より、ヒドラが成立するまでの見えざる道程を考えてみて
2010年のDevelopmental Biologyの348巻p.120-129には、共生による生物進化を打ち消すような論文が発表された。海生ヒドロ虫の一種Hydractinia echinataの細胞系譜解析では、全能性の腸幹細胞が表皮細胞から生殖細胞まで全ての分化を網羅しているというのだ。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012160610010158
本論文を発表したケルン大学のG.プリッケルトのグループは、二種類のアクチンプロモーターを利用したGFPの発現ベクターを用いた。アクチンIプロモーターは表皮および生殖細胞で機能するが、アクチンⅡプロモーターは全ての細胞で機能する。この技術を駆使して、前記成果がもたらされた。
本論文の最後に、淡水産であるヒドラはヒドロ虫が個別に生活するようになった存在であり、このヒドラへの進化の途中で幹細胞の分化能力の喪失があったのではないか、と述べている。
ヒドラの幹細胞システムは海生ヒドロ虫の腸細胞の全能性から多能性への格下げという結論が正しい場合、S.ショスタクが考えてきた、腸細胞=原生動物、上皮細胞=板形動物という共生の図式が消滅する。形態なんて所詮は元素の電子配置が織りなす結晶の集積でしかないのだから、刺細胞と微胞子虫の類似はただの収斂だ、とリマ=デ=ファリアを信じ抜く者に非難されても仕方がないかもしれない。
だが、私達は-これを述べると何でもそうこじつけられると出る杭を打たれかねないが-共生は複数回起こり得たと考えることはできないだろうか?S.ショスタクは主要な刺細胞の消失を推測していることからも、最初の共生と二回目以降の共生で宿主側の幹細胞システムに何らかの影響を及ぼしたということはあるかもしれない。酷似したsrRNAの配列からも何らかの共生はあった可能性は高いとなれば、藻類が共生を繰り返して進化してきたように、多細胞ゆえに顕微鏡で観察できるヌクレオモルフのような痕跡はないにしても、もしかしたら、外観はあたかも幹細胞の一種のように振舞って潜んでいるのかもしれない。となれば、その見えざる道程をもっと追い求めて良いはずである。
②ヒドラからの腫瘍の発生について
体内にシュードモナス菌を飼っているヒドラに、スピロヘータが住みつくと、腫瘍細胞ができるようだ。スピロヘータだけ体内にいても腫瘍ができるわけではなく、また、22度の温度刺激があると、腫瘍細胞ができる確率が高くなる模様。
ヒドラと腫瘍の研究の歴史は古いようだ。意外と知らないことが多い己の無知さに驚く。高い再生能力を持っていること、出芽という無性生殖で個体を増やせることは知ってはいたが...
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