RNA編集の生命現象から、頭足類の宇宙起源を夢見ることはできるだろうか?
2018年のProgress in Biophysics and Molecular Biologyの136巻では、国際的な研究チームによって、カンブリア大爆発が地球上ではなく、宇宙からの隕石飛来を介して訪れたウイルスや転移因子といった遺伝因子の貢献で起こったと考察する総説が、掲載された。その中でも、個人的に興味をひかれたのは、軟体動物の頭足類のタコ・イカが、宇宙から来た生物だとする考えであった。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0079610718300798
タコ・イカはほかの軟体動物やその他の動物門と異なり、大きな脳、複雑な神経系、カモフラージュ(擬態)、カメラ眼、柔軟な体など、注目すべき特徴を持ち合わせている。このチームは、2017年ののCellで発表された頭足類のゲノム解析の報告を根拠に、アデノシンからイノシンへのmRNA編集がほかの動物門や軟体動物に比べ、突出して多く保存されているデータを基に、遺伝子水平移動だけでこのような差異が生じたとは考え難く、極論すれば、凍結した卵が宇宙から飛来したと考えてもよいのではないか、まさに断続平衡説の考えでいう「断絶」された動物ではないのか、といった考えを展開していたのだ。
タコのゲノムを解読するOIST研究者らがタコのゲノムの解読に成功し、世界で初めてとなる頭足類の全遺伝情報が明らかになりました。
RNA編集という生命現象は20世紀には既に知られており、Y教授が愛した「ブラウン分子遺伝学」p.132にも、これについての記載がある。トリパノゾーマで発見され、ヒトのアポリポタンパク質でもこの現象があることがわかっている。この書物は前世紀のものだから、今日では膨大な知見がPubMedなどデータベースに存在することだろう。DNAから転写されたmRNAに塩基が単一か複数挿入されるのだという。翻訳されるアミノ酸は変わるから、最終的な遺伝情報も変わるのだが、この生命現象の存在意義はいまもわかっていないはずである。従って、頭足類で起こるmRNA編集もその意義を誰も明快に論じることはできない。
※RNA編集の参考リンクです。
そうであっても、このような現象は、タコ・イカに顕著でオウムガイではほとんどないという事実がわかっていても、これが原因で他の軟体動物と一線を画した特徴的な形態を勝ち得たとは断言できないように思う。無関係ではないだろうが、mRNA編集の保存=宇宙から飛来、はあまりに議論が飛躍しすぎてはいないだろうか。