相談と愚痴のあいだに
この人はとにかく悩み事が多い。犬の放置ウンコから海洋汚染問題まですべての事象を「マイ人生の大問題」として抱え込む。真面目に生きてきた人なんだろうとは思う。
「ごきげんよう」の代わりに「相変わらず悩みがなさそうだな」と浴びせられる僕だってたまには迷うぞ。昼飯をカレーライスにするかカレーうどんにするか。To be or not to be人間だもの。ああ、今日は白いシャツだった。
道端のソクラテスにでも聞いてくれたら納得できる答えが得られるだろうに。なんで僕なのだ。
だいたいこいつは相談を持ちかけておきながら、僕の具体的な提案に対してそれを一度だって実行したことがない。そんなもんは効果がないなあ。と、ネットで拾ってきた反対理論で対抗してくる。
「ワンピースとパンツとどっちがいい?」って聞かれてワンピースにしたら?と助言すると着物を引っ張り出してくる僕の母親とそっくりだ。
「ダイエットしたいんだけどさあ。」「youtuberがやってたこれ、ストレスなくていいらしいよ。」「ああ、それねえ効果なさそうなんだよね。」
それならなんでもいいからとりあえず10㎏痩せてからこいや!
相談好きな人で、ちゃんと相談相手から「これやってみ」って言われたことを実践してる人って多いんだろうか。
成果が出ていないのなら、たぶんアドバイスは間違っているのだろうが。
朝活も、毎日のトイレ掃除も欠かしていないのだろうか。
ある日、彼の相談に対してひたすらボケをかまし続けるという返し技で対応をした。
「転勤になるかもしれないし、ならないかもしれない。」
「よし、じゃあ僕が上司にかけあってやる。誰か知らないけど。」
「通勤が面倒になるし、かといって引っ越して田舎暮らしはいやだ。」
「自家用ジェット買うか運転手雇うか。あとIR誘致しよう。パラダイスシティだ。カジノも作ろう!」
「…転勤にならないかもしれないし。」
あ、なんか分からんけど、振りだしに戻っている。
「祈るよ。」
その後、彼が僕の目の前に姿を表すことはなく、僕は平和を手に入れた。
人生なんて解釈と行動。あと時々屁理屈くらいがちょうどいい。
(261日)