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忘れすぎて何を思い出そうとしているのかを忘れる

「忘れました!」
「なんで忘れたの!」
こんな理不尽なハラスメントがあっていいものだろうか。「何で」と聞かれても答えようがない。そもそも忘れなかったらこんなふうに申し出ていないだろう。「忘れたかったから」「はなから忘れる気、満々でした~」などと答えようものならば、どれほどの制裁を加えられるかわかったものではない。相手を一方的に追い詰める暴力的行為に僕は断固反対したい!

日本人は忘れてしまう行為に無慈悲だ。腹を減らした猛獣に襲われる心配は無くなったが、忘れることで他人から襲撃される恐ろしさに怯えて毎日を暮らしている。

更に年を重ねていくと、覚えていくほうがタイヘンになってくるので、忘れることに関して己の認知の負荷を緩めていくしかない。おかげで忘れっぷりにも磨きがかかってくる。医者から止められていたのを忘れて酒を飲んでしまうとか、飲まなきゃいけない薬を飲み忘れるとか。

いつの頃からか、仲間同士の会話が「なんだっけ」「あのドラマに出てる」「背が高くてイケメン」「髪の長い可愛い子」「なんとかってグループの」雲を掴むようで、互いの胸ぐらを掴みたくなるくらいのボンヤリキーワードオンパレードな会話が展開されていく。脳からの信号をニューロンが処理しきれないため、最終的に「で、何を話そうとしていたんだっけ」という着地もなくはない。皆で協力し思い出し、記憶を繋ぎ合わせ、努力と涙で構築された話題も、数時間後には「で、なんの話で盛り上がってたんだっけ」と忘れる。

忘れることに人の脳は忙しいのである。そりゃあもう。

大事な会議の日程は忘れるが、嫌いな人の電話番号は忘れない。
酔っぱらってパジャマに着替えるのを忘れるが、翌朝目覚めることは忘れない。
嫌なことは忘れるが、人から受けた恩は忘れていない。

大丈夫だ。心臓を動かすことも、呼吸することもまだ忘れてはいない。


(218日)

#エッセイ #コント部 #僕なりの幸福論 #毎日note #忘れられないの #忘れよう #僕なりのライフハック

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