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「スタートアップ投資には3つのパターンがあります」ベテラン投資家が教える投資の心構え〈守屋実氏インタビュー・後編〉
経営陣の入れ替え、度重なるピボット…立ち上げから順風満帆にはいかないこともあるスタートアップ。
では、スタートアップへの投資に必要な心構えとはなんでしょうか。
前半記事に引き続き、スタートアップ投資をする際の”心構え”について、投資家歴35年、新規事業家で『新規事業を必ず生み出す経営』(日本経営合理化協会)などの著書を持つ守屋実さんに聞きました。
※この記事はYou Tube番組『教養としてのベンチャー投資』をもとにまとめたものです。
前編:https://www.youtube.com/watch?v=DexjsfuqB1Y
後編:https://www.youtube.com/watch?v=pAysfD4dwPU
番外編:https://www.youtube.com/watch?v=TOhZsgzVouk
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ミスミを経てミスミ創業者田口弘氏と新規事業開発の専門会社エムアウトを創業。複数事業の立
上げと売却を実施、2010年守屋実事務所を設立。新規事業家としてラクスル、ケアプロの創業
に副社長として参画。2018年、ブティックス、ラクスル、2か月連続上場。博報堂、JAXAなど
のアドバイザー、内閣府有識者委員、山东省人工智能高档顧問を歴任。著書に『新規事業を必
ず生み出す経営』(日本経営合理化協会)、『起業は意志が10割』(講談社)、『DXスタートアップ革命』(日本経済新聞出版)など。
これを読めば、スタートアップ投資家としての企業の見極め方、そして正しい心構えがわかるかもしれません。
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スタートアップに変化はつきもの
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ーースタートアップに起きる”想定外”なこと、最後のキーワードは「早すぎるEXIT」です。
事業ではその時々で経営判断があります。
その事業がよりよくなるにはどうすればよいかを経営陣は常に考えます。
そして、その手段としてM&Aが選択肢としてあがることもあります。こういった場合には早すぎるEXITがありえますよね。
ーーゴールが変わってしまうことすらもスタートアップ投資では起こりうるということですね。
現状、多くの企業はIPOを目標に掲げて創業します。
しかし、IPOを目指すことと、それが確定事項であることは別だということを投資家は理解しておいた方がよいです。
上場しなかったからといって文句を言うのは投資ではありません。
ーー前編でもお話いただいた「スタートアップ投資は生き物」というお話ですね。
そうですね。何度も言うように、”想定外”が想定内なんです。
ーーここまでいくつかのキーワードからスタートアップ投資において起きる”想定外”についてお話を伺いましたが、スタートアップ投資は変化が非常に多いという印象があります。そういった変化を理解することと、楽しむ姿勢が重要だということですね。
起業家は、なしえたい夢やつくりたい未来があって事業を創業します。
対して、投資家側も一緒に夢を実現したい、応援したいと、夢や未来のために伴走する気持ちを持ってほしいです。
伴走し切ったときの景色はそこでしか見れないものなので、感動も非常に大きいです。変化の多さに対してマイナスな気持ちを持つのでなく、プラスの気持ちを持って投資をしてほしいと思います。
スタートアップへの投資は”応援”
ーーでは、ご自身で35年に渡ってスタートアップ投資をされている守屋さんが考える「スタートアップ投資の鉄則」とはどういったことになるでしょうか。
基本的には投資は応援だということです。
そもそも私は自分のことを投資家だとは思ってはなく新規事業家だと思っています。
本当は自分でしたいけれど、時間などの制約で自分ではできない。そういった事業を一意専心で取り組もうとしている人がいる。その人の事業に混ぜてもらう。
こういったスタンスが世間ではたまたま”投資”という言葉で括られているという認識です。
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ーー世間一般では守屋さんのようなスタンスではなく、投資ではまず「利益第一」という人が多いかもしれません。
もちろん投資ですので利益を追求するという考えもあります。
ただ、その考えが第一に来るのであれば、スタートアップではなくレイターや上場後の企業に投資した方がよいでしょう。
また、スタートアップ投資においては起業家側も利益追及を第一に考える人を事業の創業段階では募ってはいないと思います。
ーースタートアップの起業家視点ではどういった投資家に応援してほしいと思うのでしょうか。
前編の話とも共通しますが、変化に対してマイナスな意見ばかりを言う、事業方針の変更を追及するというような態度は”応援”とは違います。
変化の多い創業段階では、自分の夢をプラスな気持ちで応援してくれる投資家を起業家側も歓迎すると思います。
応援は3つのパターンがある
ーー応援ということがキーワードとなっていますが、では具体的に応援はどういったことをすればよいでしょうか。
スタートアップ投資には3つのパターンがあります。ハンズオン、ハンズオフ、ハンズイフの3つです。
経営に深く関与して一緒になって頑張るというのがハンズオン、反対に遠くから見守っているような姿勢がハンズオフとなります。そして、何かあったときに声をかけてもらえれば助けるという関わりがハンズイフです。
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ーーこの3つの中から自分の姿勢を決めるということですね。
そうとも言えますし、そうでないとも言えます。
この3つのどれか一辺倒ということでなく濃淡があるという表現が適切になるでしょう。その時々や関係性によって関わり方は変化をしていくものです。
ーーそもそもにおいて、わたしたちは投資する対象のスタートアップをどのように見つけるとよいでしょうか。
創業初期であればあるほど人になります。
創業当初はビジネスモデルも変化する可能性が高く、経営陣も固まっていないでしょう。そうなると見るべきところはほぼ起業家本人になります。
逆に後期になるほど事業はひとりだけのものでなくなってくるので、起業家本人の重要度は相対的には下がっていきます。
ーー起業家本人で判断する際に守屋さんが見ているポイントはどこになりますか。
その起業家が口にしていることに共感するかどうかです。
もし、自分が何も湧き上がる感情がなければ共感していないということです。自分が共感しているかどうか、湧き上がってくる感情をよく見てほしいです。
投資家が注意すべき”賢者の沼地”
ーー実際にスタートアップ投資をスタートさせて投資家になったとします。この際に気を付けるべきことがありましたら教えてほしいです。
この点について私は”賢者の沼地”という言葉を用いて注意喚起をしています。
起業家はまだ多くの経験を積んではいない若い人が多く、一方の投資家は人生の経験を積んできた年配者の方が多いです。
このことによって起こる悲劇が”賢者の沼地”です。
ーー”賢者の沼地”とはどういったことでしょう。
投資家が起業家に対して「教えるモード」になってしまうんです。
いろんな投資家に自分の考えを押し付けられると、起業家は沼にはまるように迷子になってしまいます。
また、今は時代の変化が激しいので、過去の正解が必ずしも正解ではないということも多いです。
しかし、これが「スタートアップ投資あるある」になっているんですよね。
ーーこういった投資家にならないためにはどうすればよいでしょうか。
適切な距離を把握できる感覚を習得していくしかないですね。これを理屈だけで習得しようとすると大体こじらせます。
先輩たちのアドバイスも聞きつつ、投資家として成長していくというのが最善の方法です。
まず、極端な思考の癖を直すことが大事です。
小学生の算数のように「Aと言ったらA、BといったらB」ということではありません。AとBの間にはグラデーションがあり、AでもありBでもあるというのが経営です。
そのため、投資家の方もグラデーショナルに物事を捉えてほしいですね。
スタートアップ投資は10年視野で
ーーところで、そんな守屋さんでも投資に失敗することはあるのでしょうか。
そもそも私は投資は上手くいかないことが大前提だと思っています。
全部が成功するとしたらそれはもう投資ではないでしょう。日本国内で投資を受けているベンチャー企業は年間約2000社と言われており、またIPOに到達する企業は年間約100社です。
IPOする企業の中にはスタートアップ以外も含まれるので、投資を受けてもIPOできないスタートアップの方がはるかに多いです。
ーーでは、スタートアップ投資で利益を出すのは難しいということになるでしょうか?
短期的にはそういう側面があるのは事実でしょう。スタートアップ投資はデイトレードとは性格が違います。
スタートアップ投資の場合はもっと長い目で見ることが必要です。私の経験でもIPOするまでには平均で10年はかかります。
ーー最後に伺います。世の中にはさまざまな投資があります。多くの選択肢がある中で、守屋さんがスタートアップ投資に積極的な理由、そして魅力はどういった点になりますか。
思い描いていた未来を実現できた時の喜びはお金では換算できないほど大きなものがあります。これはシード・アーリーでの投資でないと体感できない喜びです。
また、大きなリターンが得られる可能性もあります。リターンは0パーセントかもしれませんが1000パーセントかもしれません。投資額が1000パーセントになったら嬉しくない人はいないでしょう。
一緒に夢をかなえられて、そして大きなリターンも得られる。
これがスタートアップ投資の魅力だと思います。
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※この記事はYou Tube番組『教養としてのベンチャー投資』をもとにまとめたものです。
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