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020. #恋人を喪った安田短歌 について その1 安田短歌の最初期

「恋人を喪った安田短歌」とは、映画『シン・ゴジラ』に登場する文部科学省研究振興局基礎研究振興課課長・安田龍彦(演:高橋一生)が、ゴジラの放射熱線で恋人を喪ったのではないか、という妄想の下で詠まれた短歌のこと。簡単に言うと「架空の設定をプラスした二次創作短歌」だ。
この短歌はTwitter上で「#恋人を喪った安田短歌」というタグ付きで広がっていき、発足した2016年9月19日から今までの間に、数千首もの短歌が詠まれてきた(正確な数はもはや把握不能だ)。
この二次創作短歌を一番はじめに作りだしたのが、僕だ。

Twitter上でフォロワーさん同士が「もしも安田が恋人を喪っていたら」というやりとりをしていたのを見かけたことが事の発端だった。最初のうちは僕もそのやりとりの延長として、安田と恋人の思い出を妄想したツイートなどを書いていたわけだが、そのうちにふと、「このテーマで短歌を詠んでみるとどうだろう」と思いついた。これは本当に単なる思いつきで、数首作ったら飽きるだろうというくらいの軽い気持ちだった。まさか、このハッシュタグによって人生に変化が訪れるとは、このときの僕はまだ知る由もなかったのである(大げさ)。

記念すべき1首目はこちら。

神の火は平等ならば君もまた等しく被災者名簿に並ぶ

このあと立て続けに10首ほど詠んだところで、僕は一旦、映画館で『スーサイド・スクワッド』を見るためにTwitterから離脱。その間に他のフォロワーさんもちらほらとタグをつけて安田短歌を詠み始めた。僕も仕事の間にちょこちょこと作ってツイートする。この辺りではまだ「今までTwitterでやった企画よりは反応がいいなぁ」という感じ。

タグ発足の翌日には20首をピックアップして連作を作った。

なかなか1日で20首以上作ることなんてないのだけれど、興が乗ってしまったのだからしかたない。
さて、数日経っても安田短歌の増える勢いが止まらないので、僕もちょっと戸惑いはじめる。9月24日には「安田短歌、まだ伸びるのか」とツイートしている。自分以外の短歌がかなりの数出てきたので、9月25日に僕の選歌による安田短歌のアンソロジーを公開。安田短歌タグが生まれてから一週間も経っていなかった。

個人的にはこのアンソロジーで一区切りのつもりだったのだが、詠む人は増加する一方。神山君が名刺カードに印字した短歌を写真と組み合わせる形式でツイートし始めるなど、新しい手法も生まれてきて、すでにこのハッシュタグは「僕が発起人であるちょっとした遊び」というささやかなものではなくなり始めていた。

ちなみにこの数日間で僕の作風も微妙に変化している。最初はベタに「恋人を喪った安田」目線のものを作っていたのだが、そのうちに「単に恋人を亡くした目線で詠むだけでは、シン・ゴジラを題に取った意味がないのでは?」と考え始めた。ではシン・ゴジラならではの視点とは何か。そこで僕は「東京が壊滅する」という大きな死の最中で個人の死を悼むことについて考えながら、次の連作をまとめた。自分の他にも悲しみを抱えて生きている人がいるとか、あるいはその悲しみさえ消費されていくことを詠みこんだつもりだ。

そんなこんなで10月に入り、安田短歌の勢いも落ち着き始めた。「あー、楽しい遊びだったなぁ」とすっかり宴もたけなわな気分の僕だったが、まだまだこれは「安田短歌」と言う企画の序章に過ぎなかったのである。

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