ライフデザインラボはどうしてできたのか その1 「まちのミシン」
こんにちは!「つながりづくりの実験室」ライフデザインラボの所長の船本です。
ライフデザインラボは横浜の日本大通りにあるコミュニティスペースです。
ラボがどのようにして生まれたのかを2回にわたって紹介します。
きっかけはミシンでした。
この文章は、コミュニティの運営や住民主導のまちづくり、個人の地域活動への参画、スペースの活用、子育てを含む人生を地域に開いていくことに関心を持つ方に役立ててもらえたら嬉しいです。
ラボができる前の話_産後のウルトラパワー
0歳子育て中の母親の瞬発力・原動力は大きい。
本当に大きい。心当たりがある人もいると思います。私もその一人でした。
出産子育てというのは人を生まれ変わらせます。あまりいい意味ではありません。
小さな子どもがいると、今まで通りに生きていけない。
大事なものの順番が変わり、自分の想像通りにはコトは進まず、経験は積み重ならないことを思い知ります。
産前まで悩まず信じてきた「肯定感」「達成感」が、いかに恵まれたものの上に構築されていたのかに気づき、そんなこれまでの世界の価値観に別れを告げます。これが生まれ変わりの始まりです。これまでの人生で構築してきた考え方とのお別れです。
新しい世界のヒエラルキーを懸命に読み取り、自分を再構築する毎日が始まります。
ゼロになった産後期
私は2012年にはじめての子どもを出産しました。
今8歳と6歳を育てています。
はじめての赤ちゃんを迎えた1年目。子育ては幸せでしたが、辛いことの連続でもありました。
思った時に歯磨きをすることもできない。トイレだっていけない。
時間はいっぱいあるけど建設的な使い方はできない。
何もできないまま毎日がすぎていく。自分の時間は自分のものではない。
社会とつながることが難しい。会話のタネに乏しくなっていく。
どんどんできないことばかりが増えていきます。
考えることも縮小し、話題に乏しいからおしゃべりもうまくできないし、交友関係も狭くなりました。
「何事にも興味津々でいる」とか「常に前向きな気持ちを持つ」「ユーモアを持って話を聞く」などの
自分の取り柄だなと思っていたことがうまくできなくなっていき、
得意だと思っていたことが得意じゃないことに気づき、
自分が0になったような気がしました。
外出も、赤ちゃんの状況・天候・交通手段・荷物の多さなどの要素を勘案し「その外出にどのくらいの価値があるのか」を考えるとメンタルがやられてきます。
そしてようやく外に出ても赤ちゃんを簡単におろせるようなところはまちには少なく、どこに行ったら受け入れてもらえるのか情報も少なく、安心できるところはやはり苦しくも閉じられた家庭だけなのだとも思い知ります。
まちのどこに立ち寄ることもできないし気を休めることもできない。
私にとってまちは通過するだけの場所になっていました。
子育て当事者によるまちづくり活動
2013年2月、私と同じように当時0歳児を子育てしていた10人の母親たちが集まって、まま力の会(ままりょくのかい)という活動を始めることになりました。
横浜市中区の本牧地区センターの当時の館長さんが呼びかけてくださって、集まったメンバーで結成しました。
子育て当事者の目線で子育て環境を良くしていこうと始まった活動です。
自分たちの悩みや不安の中に、広く子育て世代のみんなのニーズがあるのではないかという仮説のもと、自分たちが必要だと思う活動を行ってきました。
例えば子ども服のリユースマルシェや味噌作り会、お弁当講座や時短家事の料理教室などです。
当時はほかでも活動されていなかったことにミシンの活動がありました。
入園入学グッズをつくる会
子育て中の親たちが直面する課題の1つにミシンがあるのがご存知でしょうか。
幼稚園や保育園に入園する、あるいは小学校に入学する際、その園や学校独自の規定の布小物を用意しなくてはならないケースが多くあります。
例えば、お弁当包みの袋、フォークやスプーンを入れる袋、ランチョンマット、体操着入れ、絵本バック、上靴袋などです。
施設の収納サイズの状況に応じて何センチと指定されていることもあって、既製品ではうまく合わないケースも多いのです。
今はSNSなどで作ってくれる人とのマッチングなども盛んですが、当時はまだ簡単には他人に頼めない状況でした。
皆さんのご家庭にミシンはありますか?
ないと言うご家庭もありますよね。ミシンがあっても使い方に自信がない人もいます。
園や学校からのプリントには、完成のサイズだけが示されており、作り方や展開図は載っていません。どれくらいの長さの布を買えばいいのか、どう縫い合わせていけばいいのか。すぐにわかる人ばかりではありません。
私の同世代で、子育ての一年先輩にファッションデザイナーの矢内原みつしさんがいます。
娘さんの園の規定で水筒カバーを作ったという矢内原さん、「僕の家庭は僕が作れるからいいけど一般の家庭はどうしてるのよ」という気づきから、ミシンの体験イベントを提供したいとまま力の会に提案をいただいたのです。
「ママがミシンをする事は必修科目」という課題を知った私たちは、矢内原さんのアドバイスのもとミシンを使った場作りを始めることにしました。
子育て中の母親からニーズを聞いて貴重品入れを作るバッグワークショップから始まり、矢内原さんのブランドでベトナムの女性中心の工場と連係して授乳カバーやおしり拭きケースを制作するというプロジェクトに参加させていただいたこともありました。
中でもミシンを持ち寄り入園入学グッズを作成するという活動は、ソーイングが得意な方をアドバイザーに迎えて継続的に開催しました。
(現在もラボで活動する石川澄江さんともこのときに出会うことができました)
そのうちに会場手配やミシンを運ぶコストなどの課題が出てきます。
それを解決する策として、ミシンをまちの人から寄贈してもらうプロジェクト「まちのミシンを持つ」が生まれました。
家で眠っているミシン、使っていないミシンを寄付してもらうというものです。
・亡くなった妻のミシンを捨てられずに持っていたという方、
・もう諦めてしまったがファッション業界に進もうと勉強をしているときに使っていたというミシン
・自分が子育てしていた頃購入したが今は眠らせていたという方、
いろいろなストーリーのあるミシンが集まりました。
そのミシンをもとに場作りをしてみると、子育て世代だけではないつながりの姿が見えてきました。
ミシンの話はいっぱいあって長くなってしまうのですが、ラボとしての発端は寄贈してもらったミシン9台を保管しておく場所に困っていたことが始まりです。
当時ミシンを置かせていただいていたワークショップスペースが貸しスペースを辞めることになり、ミシンの置き場所に困ることになりました。
せっかくのミシンなので、またどこかでミシンをもとにした場づくりを行っていきたい。
そこで、「ミシンを置いてくれる場所は無いか」「私たちに活動をさせてくれないか」と地域の寄り合いに顔を出しては相談をしていました。
そのことが、神奈川県住宅供給公社の当時の理事長の耳に入り、今後リノベーションして生まれる本社ビル1階のスペースの一角にミシンを置いて活動してみるという話につながります。
そこから1年半ほど、スペースの一角をどのように運営していくべきか、まま力の会だけではなく地域でチームを作り検討し、公社の皆さんとも話し合いを重ねました。
神奈川県住宅供給公社が所有する「団地」でも、住民同士のつながりの力や住民の主体性を活かしたまちづくりが大切とされています。
2018年4月、コミュニティスペースとして、まちの井戸端会議が行われる場所として、つながりづくりの実験室として、また安心安全のまちづくりを発信していく場所として「ライフデザインラボ」という名前が生まれ、活動が始まることになりました。
そのとき、ライフデザインラボはママだけの場所にしないことを信条として掲げました。次回はその話をします。
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