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番外編 元受刑者が突然沖縄にやってきたら!?

夕陽が雲と空を橙色に染めている。
帰りの機内の窓から見える素敵な景色。
そんな景色を見ながら、日記を綴っている。

心から帰りたくない。

そんな思いが心の奥底から込み上げ、全身を覆い尽くす。

振り返ると、この沖縄への旅。私の人生において考えさせられる旅となった。

久米島へ

那覇の泊港。朝9時のフェリーに乗船して、3時間半の航海。
大きな船に乗船したのは久しぶり。
風がとても強く、海も少し荒れていて、船が揺れ揺れ。

タイタニックのジャックとローズみたいな事、船で絶対できない。風で吹き飛ばされそうになるし、揺れて揺れて体のバランス保つ事がとてもじゃないけど、できなかった。

寝不足の体には、この揺れはしんどかった。ひとまずリクライニングを倒し、そっと目を閉じた。

『まもなく久米島へ到着いたします』

船内にアナウンスが響き渡る。眠い目を擦りながら、船のデッキへ出る。揺れはおさまっていたが、風は相変わらず強かった。

刑務所でたまに見ていた、10個の言葉が沸騰している番組で離島をリポートする企画があるが、船が港へ到着する時はテレビで見たような光景が広がっていた。

頭の中でサカナクションが流れてた。

久米島へ到着した私は、前日のカプセルホテルの大浴場で知り合った70代の男性に教えてもらった久米島そばのお店を目指した。

昨晩の大浴場の更衣室。

『デカイ風呂は気持ちがいいねぇ!』

と声をかけられたのがきっかけで、風呂上がりの更衣室ですっかり話し込み、いつの間にか仲良くなっていた。

この男性は定年退職後、悠々自適に老後生活を送っているらしく、毎月のように色々なところへ旅をしているそうだ。
コロナ前はベトナムなど東南アジアへも旅へ出かけ、ドミトリーに泊まっていたらしい。
今回は沖縄北谷のドミトリーに泊まり、若者とふれあい、色々な情報交換をしたそう。

私が詐欺師時代なら、この方は私の格好のターゲットになりかねないだろう。

男性と話しながら、こんなに人の良い高齢者を私は騙していたと思うと、胸が痛くなっていた。

素敵な高齢者の方だった。

『久米島行くのかい?俺の親戚が久米島そばのお店やってるんだよ!よかったら言ってみて!俺の話出したらビックリするかもな』

こんな偶然ってあるんだなぁ。
久米島に行くと決めて、まさかこんなところで久米島の情報を得られるとは思ってもいなかった。


そのお店に到着した私は、さっそく久米島の味噌を使ったそばを注文した。

店内は店と言うよりも、沖縄の古民家。素敵な佇まいで、靴を脱ぎくつろぐ。思わず、

『お邪魔します』

と言いたくなるような雰囲気。

そばを待っている時に、部屋の中を見渡す。
古民家体験にやってきた子どもたちの写真や、家族の写真が飾られていたりする。
畳の感じもとてもいい。

居心地のよさに、思わず実家を思い出してしまう。

もし、あの時私が詐欺などをせずに逮捕もされずまじめに働いていたら。。。

今頃こんな穏やかな雰囲気の実家で、父とお酒を酌み交わしながら、冗談を言い合っていたのかな。母は忙しく食事の支度をしながら、手伝ってと私に言ってくるのかな。

それももう出来ないと思うと、なんだか少し寂しく感じた。

おそばはとても美味しくて、最高だった。

店主に昨夜の話を伝えると、仏頂面だった店主は笑顔になり、喜びに満ち溢れていた。

『シンリ浜、夕陽を見るのには最高の場所ですよ!ぜひ行ってみてください!』

人と話すと色々な情報が手に入る。ノープランで島へ渡ってきた私には本当にありがたかった。

久米島は那覇よりももっとゆっくりとした時間が流れていて、身体の中の時計の針を久米島時間に合わせるのに、少しだけ苦労した。それだけ慌ただしい生活をしてきたからなのかもしれない。

日常を忘れ、穏やかな時間を過ごそう。

そう決めた私は、明日からの久米島散策に備えて床についた。


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