番外編 元受刑者が沖縄にやってきたら?12月11日土曜日
『キリキリキリキリ...クックッククック』
宿泊したゲストハウスの二段ベッドで横になっているとどこからともなく聴こえてくる音。
声?
何かが軋む音?
それとも...霊?
カーテン越しにその音の正体の影が現れた。
四足歩行の小さな恐竜のようなシャドウ。
ヤモリだった。
同部屋の人に聞いた話だが、ヤモリは虫を食べてくれるので、家に居ていい生き物だと言っていた。そしてあの音はヤモリの鳴き声とのこと。
初めて聞いたので最初は少し不気味だったが、ヤモリと知って少し安心した。
昨晩は沖縄ではポピュラーなMUSIC BARへ初めて行った。フォロワーさんの先輩の方がそこでDJをするとの事で紹介して頂いたので、久しぶりに音楽を楽しみに行った。
カウンターで一人で飲んでいたら、店長さんが声を掛けてくれて、今時のDJPLAYについて色々と親切に教えて頂いた。
フォロワーさんの先輩DJの方とも無事お会いして、実際のplayを間近で拝見した。本当にかっこよかった。自分の好きなことを極めているのがとても素敵で、刺激を受けた。
私は若い頃、ユーロビートのDJをやり何度かクラブでもまわした経験があるので、今度は趣味でまたDJやってみたいなという気持ちが再燃した。
お酒も入り段々酔いも回り出し、身体はいつの間にか音楽に乗っていた。こんなに踊ったのは、刑務所に居た頃、毎週月曜日の室内運動時間に流れるヒップホップやEDMを聴きながら、房で刑務官に注意されない程度に一人踊った以来だった。シラフでも十分その時は楽しかったが、知り合いがまわす音楽で、踊るのとは訳が違う。とても気持ちの良い時間を過ごした。
宿へ戻り、倒れるようにベッドに入り気がついたら昼だった。相変わらずヤモリは、セットした目覚まし時計のスヌーズ機能のように止まっては鳴き、止まっては鳴きを繰り返す。
宿をチェックアウトし、私は海が見たくなったので一昨日行った波の上ビーチを目指したが、泊埠頭の看板を目にした時、足が埠頭へ自然と向いた。
『離島へ行きたい』
そんな衝動に駆られてしまう。
ちょっと色々ググって調べてからにしよう。
そう決めると急にお腹が空いてきた。
井之頭五郎モードに入る。
周りを見渡すと、一軒の昭和の感じのエモい食堂。
絶対においしいものがある。
そう確信した私は、迷わず入店した。
店内は、地元の方が各々定食を食べている。近くの工場勤務の男性や、団地に住んでいる、おじぃ、おばぁ。
ほのぼの、ゆったりとした時間が食堂には流れていた。
ふと、私はこの光景に罪悪感を感じた。ここに居るような、こんな素敵な人達を私は騙していた。どうして騙せたのか。それは簡単だった。
この日常を知らなかったから。
私は電話を利用して、詐欺をしていた。被害者の顔も知らなければ、生活も知らない。唯一知っているのは被害者の声と、聞いた財産だけ。
知らない人だから騙せる。もし知っている人なら人間は騙しづらくなるはず。
罪を犯そうとしていた当時。こんなに素敵な日常があると知っていれば、罪を犯す気もなくったかもしれない。この日常を壊してはダメだと考え直したかもしれない。
人を知る事で犯罪は減っていくのではと感じた。
色々と気付かされる沖縄は
私の先生だ。
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