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懲役ダイアリー 2017年6月9日金曜日 『お笑いライブ in 刑務所?』

「イェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!」

「空前絶後のーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

運動中に轟く謎の声・・・。

サンシャイン池崎のモノマネが受刑者の間で流行していた。モノマネ自体はクオリティがとても低く、セリフも所々間違っていて、とても観れたものではなかったが、娯楽のない刑務所内では微笑ましい光景でもあった。


それから、ブルゾンちえみのモノマネも流行していた。


「受刑者は〜自分から仮釈放をもらいに行きますか?」


「もらいに行かないっ!」


「待つの!」



「初犯刑務所の受刑者の平均的なお務め期間どれくらいだと思ってんの〜?」




「35ヶ月!」




ドヤ顔・・・。




モノマネと言えば、受刑者は刑務官のモノマネをする。それに関しては毎日のように見ているからかクオリティがとても高く、とても似ていて思わず共感笑いを誘う。

例えば、工場に金線(偉い刑務官)が巡回に来た時のモノマネ。

一人の受刑者が担当刑務官の役をし、一人が金線の役をする。その構図が勝手に出来上がっていて、即興コントがはじまる。

金線の方へダッシュで駆け寄り、目の前で静止し気をつけの姿勢をし、金線に向かって敬礼。そして金線に工場の状況を元気よくこのように報告する。

「報告します!3−C訓練室!総員56名!欠員2名!欠員の状況は医務1名!面会1名!異常ありません!」

「56名っ!」

金線も敬礼しながら報告された人数を元気よく復唱する。

これは1日に何度も見る光景。あるあるすぎて面白い。笑ってしまうのだ。


運動中や多目的ホールでの余暇時間はゲリラ的にあちこちで、お笑いライブが始まるも、それはまるで中学校の休み時間のようだった。


販売士の講義の中で、プレゼン力を磨くために約8〜10分の間で話したい、伝えたい内容を考えて受刑者56名の前でプレゼンするという時間があった。

このプレゼンは販売士訓練期間の6ヶ月の中で全部で3回行われるらしいが、今回はその1回目だった。



ってか・・・プレゼンって何?



やったことがないからわからなかった。


というより販売士の訓練に来ていた56名のほとんどがプレゼンの経験などほとんどなかった。


プレゼンの作り方の基本は起承転結。それからわかりやすく3つのセクションに分けて話すことを最初に伝えて、事実とデータ、自分の感想を伝えながら最後に勧めるという流れ。

シンプルにプレゼンの仕方を伝えるとこうだと先生が教えてくれた。

なんとなく理解はできた。芸人時代に作ってたネタと同じ要領だ。

私は自分の過去の経験から話をしたいと思い、逮捕される前によく行っていた韓国の話をしようと考えた。

そして・・・

「ガイドブックに載っていない韓国ソウルのおすすめごはん屋さん」

という内容でプレゼンにチャレンジした。

56名の前での初めてプレゼン・・・。

緊張する。

お笑い芸人を目指していた時、出番前の舞台袖で先に演じている芸人さんのネタを見ながら、頭の中で何度も自分のネタをイメージして、ドキドキしていた感覚が蘇る。

久しぶりだ。この感覚。アドレナリンが湧いてくる感覚。なんだか心地よい。

私の番になり、考えたプレゼンを一生懸命に披露した。56名がこちらを見ている。正直緊張していたが不思議な気持ち良さも感じていた。何も覚えていない。頭が真っ白になっていたが感覚だけは覚えている。お笑いライブに出演していた時に感じていた、緊張が織り成す、空前絶後の絶頂快感。私はこの感覚が好きだと改めて感じた。

あっという間にネタを終え、まるでセックスをした後の脱力感と幸福感を感じながら袖に戻るような感覚で舞台を後にした。会場からは拍手が沸き起こり、自分の席に着くとここが刑務所だったことをようやく思い出し現実に返った。

自分では全然話せていなかったと感じたし、反省点がたくさんあったが、周りの人たちや先生からはよかったと褒めていただけた。しかし、自分の中では全くダメで、残りの2回のプレゼンはもっとクオリティを高めて内容をしっかり作成し、練習して最高のプレゼンをしてみせようと誓った。


人前で何かをして、みんなが楽しんでくれて笑顔になってくれるのを見る、感じるってやっぱ大好き!!

刑務所でこの感覚を取り戻せるとは思ってもみなかった。

なぜ自分がお金の欲望に支配され、こんな楽しい感覚を忘れ失ってしまったのか・・・。犯罪に走ったのか・・・。改めて後悔した日でもあった。


全ては順調に進んでいる。人生の成功に向けて。



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