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懲役ダイアリー 2017年5月17日水曜日 『点検』

「点検よーーーーーーーーーーーーぉぉぉぉい!」

朝、6時50分過ぎ民間警備会社の警備員さんの声がユニット内に響き渡る。

島根あさひ社会復帰促進センターでは、警備員さんが刑務官のお手伝い的な形でセンター内の警備にあたっている。朝夜の点検業務をはじめとして、受刑者が集団で移動する際に誘導をしたり、食事を運んでくれるAGVカートのの食事前の点検と準備、刑務官と同じように所内を巡回、受刑者への金属探知機を使用した検査など仕事は多種多様だ。

点検用意の合図とともに、居室内に設置された椅子をドア側正面にするように向けて座り、背筋を伸ばし、手は太ももに軽く乗せ、両足はしっかり床につける。これが点検姿勢。

ご丁寧に、「所内の心得」という受刑者全員に配布されるパンフレットにも写真付きでこの点検姿勢が掲載されている。この姿勢をとらなければ点検中にも巡回してくる刑務官に鬼のように怒られる。


「てんけーーーーーーーーーーーーーーーーん!!」


二回目の合図で点検が始まる。私は点検中いつも目をつぶっていた。点検で房の目の前に来た警備員さんや刑務官と目を合わせるのがなぜか嫌だったからだ。


にしても・・・今日全然終わらない。点検。


警備員がこっち回ってこない・・・。


あれあれ・・・。なんでだ。


6時59分から流れ出すNHKニュースのラジオ前には終わるはずなのに、ラジオが始まってしまった。だが点検終了の声は聞こえない。


すると突然罵声が聞こえてきた。


「おい!!朝から何やってんだよ!点検拒否なんてすんなよ!」


巡回の刑務官の声だった。どうやら朝から点検拒否をして調査へ上がろうとしている受刑者がいたようだ。点検拒否をすると、調査のため別のユニットに連れて行かれ、なぜ点検拒否をしたのかの取り調べを受ける。聞き取りが終わると、懲罰審査会というものにかけられ、懲罰になるのかどうかを複数の偉い刑務官にジャッジされる。もし懲罰になった際は、7日や10日といった違反行為によって定められた懲罰期間内に朝から夕方の作業時間内は点検姿勢でずっと座っていなくてはならない。


これが結構苦痛らしい・・・。



警備員が軽く駆け足で私の部屋の方にも回ってきた。それから30秒後くらいにようやく・・・


「点検終了っ!!」


の声がユニット内に轟き、点検姿勢からようやく解放された。


すぐに朝食時間を知らせるアナウンスが流れ、多目的ホールへ移動する。みんな点検拒否をした受刑者が誰なのか気になるのか、お互いに顔を合わせ、周りをキョロキョロしながら食事の席へ向かう。


朝食中に金線(偉い刑務官)がやってきて受刑者に怒鳴った。


「誰だ、点検拒否仕掛けた奴は。おい、いるんだろ。点検拒否しろって言ってさせたんだろ。正直に言えよ!おい!誰もいねぇのか!あ?」


物凄い剣幕、ドスの利いた声が静寂のユニット内を駆け巡ったが受刑者は誰も反応せず黙々と朝食を食べている。


「誰もいないはずねえだろ!!よしわかった。お前ら。正直じゃないな。調査で点検拒否したやつから話聞いて名前出てきたやつらは全員(調査)上げてやるから覚悟しとけよ。」


再び金線(偉い刑務官)が怒鳴り出す。


誰も反応せずに受刑者たちは朝食を食べる。その姿を横目に下を向き、申し訳なさそうな雰囲気を醸し出しながら、点検拒否をした受刑者が刑務官に連行されていった。

その日の運動時間に、点検拒否をした受刑者についての話があちこちで行われていた。軽く耳を澄まして聞いてみると、どこもかしこも・・・

「あいつなんで点検拒否したんだろうな・・・」

しか聞こえてこず、おそらく販売士の講義が嫌になったのではないかという考えで受刑者たちは落ち着き、その話もいつしかしなくなっていた。

その後、朝怒鳴り散らかした金線(偉い刑務官)も受刑者に何かを言いにくることもなく、平和な日常に戻っていった。

職業訓練に来て初めての脱落者。あとここから何人の脱落者が出るんだろう・・・。ってか、点検拒否をした人はなんで職業訓練に応募したんだろう・・・。

色々な思いを抱えながらも、自分は自分だ!気にしないで目の前のことをやっていこうと改めて自分自身に誓った。

全ては順調に進んでいる。人生の成功に向けて。


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