![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/68479288/rectangle_large_type_2_9d3c11610727024667bed939cf1786df.jpeg?width=1200)
懲役ダイヤリー 2016年12月28日木曜日 一般工場へ配役
『2716番!君は1D工場に配役となる。迷惑かけないよう頑張りなさい。』
朝一に上役の刑務官に呼ばれ、これから一般の工場へ移動する。
昨日から緊張はしていたが、緊張がさらに増した瞬間でもあった。
昨日の出来事・・・
考査の最終日、処遇審査会というものが行われた。ここでは偉い刑務官数人に囲まれ、面談が行われた。
自分の番になり、処遇審査会の行われている部屋へと入室する。
『気をつけ!礼!なおれ!称呼番号!氏名!』
刑務官の号令にならい、番号と名前を大きな声で告げるも、なぜか緊張して声も手も震えていた。
『君は詐欺をしたんだね。どうせ出てからも又やるんだろ?』
『ちゃんと反省してんのか?』
わざとなのか・・・刑務官の感情を揺さぶるような高圧的な発言・・・。
正直、イラッとしたが、冷静になりしっかりと受け答えをした。
『以上で終わります。明日から配役になるので心の準備をしておくように』
何を聞かれたわけでもなく、これがどう配役に繋がるのかもわからないが、最後にそう告げられて、刑務官の号令がかかるも・・・俺、最後にやっちまった。
『右向け〜右っ!』
動揺していて左を向いた俺・・・
『右や!!!』
刑務官に怒鳴り散らされ右を向き部屋を出た。
昨日の苦い思い出を噛み締めながら、考査棟にさよならを告げ黒いキャリーバッグをガラガラ引きながら、第一収容棟にある1−Dへ移動した。
この施設・・・広い!
私が収容されていた考査棟があるのは第八収容棟。そこから外にむき出しになっている回廊を歩くと距離がまぁまぁある。体感で渋谷駅から渋谷センター街入口位まではあった。そして凄く寒い。風が鬼のように通る。六甲おろしのように。回廊から見える景色は、雪化粧をした運動場。こんなに積もった雪を見るなんて、スキー場以来だな。
そうこうしているうちに、1−Dへ到着した。中へ入り、目の前に広がった光景を見て私は驚いた。
メゾネットのように1階と2階に別れていて、受刑者の房は全て個室。中央部には4人掛けの椅子とテーブルが15台程並んでいる。海外の刑務所のようで想像していたものとはかけ離れていて、とても綺麗な感じだが、陰気な雰囲気はなんとなく感じていた。
私の部屋は18号室。中央部のテーブルから離れた奥の方の部屋だった。荷物を置き、すぐに工場へ移動とした。工場へ入った瞬間の第一印象は・・・
ゆるい・・・あれ・・・なんか厳しそうな感じしない・・・。
考査とは全然違う。これが刑務所なのか・・・。毎日きつい訓練受けてきたから感覚が麻痺してしまったのかとも疑ったが、それは杞憂であまり厳しくはなかった。
訓練室に入り、作業の内容の説明を受けているとすぐに運動の時間になった。運動着に着替え、寒い回廊を歩き、体育館へ移動し、準備体操をしてから運動開始となった。
『お、新人さん!俺、イマハラ(仮名)っていうんだ。で、こいつがカマタ(仮名)こいつはタカ(仮名)よろしくな!』
このイマハラ君は年は同い年で、話を聞くと覚せい剤密輸で逮捕されて6年の懲役判決をもらったとのこと。イマハラ君は私に色々なことを教えてくれた。
『このユニット(工場)には五十数人いるんだけど、色々な派閥があってさ、一度そこに入っちゃうと抜け出すの大変だから、話す相手は本当に選んだほうがいいぜ。マジですぐ喧嘩になるからよ!俺はもう誰にも属さずにフリーな感じだけどさ!そんな感じにしてたら、カマタとタカが来てさ!まぁ楽しくやってるよ!』
なるほど・・・そういう立ち回りをしないとなんだな・・・。なんていうか刑務所の人間関係って非常に面倒臭い。水商売の世界みたい・・・。正直そう感じた。
昼食は工場の階段を登った2階にある食堂で食べる。私が何もわからないので、キョロキョロしていると・・・とある受刑者が
『交談します!』
と職員に許可をとってくれて、色々と食事の時の動きを教えてくれた。凄く優しい。教えてくれたのは、ここのユニットリーダーの『ナイトウ(仮名)』さんだ。
ナイトウさんもまた色々なことを教えてくれた。作業のことからここでの生活のこと。わからなかったらいつでも聞いてください。と丁寧に親切に教えてくれた。本当にいい人だ。
工場での起居動作は、用件がある時は右手をまっすぐ上げて大きな声で
『はいっ!!』
と言う。
『用件!!』
と担当のオヤジ(刑務官)に言われたら、
『運搬係との作業交談お願いします。』『○○さんとの作業交談お願いします。』『担当台前までの離席の許可をお願いします。』
などと大きな声でその場で顔を真正面にしてはっきりを言う。担当のオヤジに
『よし』
と言われたら
『離席します。』
と言ってようやく離席ができる。
作業終了時は作業席から整列するがその時は部屋番号順に並ぶ。
色々とルールがあって覚えるのが凄く大変そうだと思った。
16時40分作業終了。
『明日から年末年始の休みに入る。くれぐれもお菓子の授受や調査、懲罰になることのないよう落ち着いて過ごすように。年明け、この全員でまた会えるようにしっかりと過ごしてくれ。』
担当のオヤジが受刑者にそう伝え、今年最初で最後の一般工場での作業が終了した。
正直、いい人も多いけど、見た感じろくでなしブルースや、クローズに出てきそうな、やばそうな奴らも多い。このユニットで私はしっかりやっていけるのか・・・無事故で過ごせるのか・・・。
本当の懲役生活はこれから始まるのであった・・・。