懲役ダイアリー 2017年3月1日水曜日 『いっこく堂 VS funaim』
とある水曜日・・・
『2716番っ!funaim!担当台前へ!!』
終業1時間ほど前に担当の刑務官に呼び出された。
え、俺・・・なんかした・・・。
心当たりはない。特に違反をした覚えもないし、なんだなんだ・・・。恐る恐る担当刑務官の元へ向かう。
刑務官の前で一礼し、
『2716番!funaimです!』
と告げる。
すると開口一番担当刑務官がこう言った。
『funaim、今日から工場内清掃係に任命する。清掃時間はこれから。他の清掃係の人間に教えてもらいながらやるように。清掃時、話をする時はちゃんと交談の許可をとってから話をするようにな。以上。』
この工場へ来て2ヶ月。いきなり清掃係に任命された。毎週水曜と金曜日に1階の作業工場内、トイレ、シンクと2階の食堂とトイレ階段を複数人で清掃をする。
私は1階の係になったのだが、これが結構大変。工場内は結構広い。わかりやすく例えるなら、コストコの店内入り口からのテレビ売り場までのスペース少し広くした感じくらいあるだろうか。
うーむ・・・わかりづらい。
たとえ下手すぎる。
約40分程度の清掃は、なるべく作業中の受刑者の邪魔をせぬよう注意しながら、
「すみません掃除入ります」
と言いながらやっていく。工場内はとても寒いので、メリヤスやヒートテックを重ね着し、靴下も3枚履いていたが、掃除するだけで暑くなって結構汗をかくので、清掃前には必ずシャツ一枚と作業着になろうと思った。
しかし、掃除というのはとても気持ちがいい。清々しく感じるから最高だが・・・まさかこの清掃係になって・・・あんなことが起こるとは。
矯正指導日の日。受刑者達に教育番組視聴という時間が設けられ、受刑者は様々な番組を視聴する。例えば「プロフェッショナル仕事の流儀」「ためしてガッテン」「ガイアの夜明け」などなど。他にも沢山あるが、ありすぎるので割愛させていただく。
その中で、大阪にある「よしや(お菓子店)」という会社があるテレビで紹介されていた。私はこの会社の方針や理念、経営者の言葉や振る舞いに感銘を受けた。
経営者は誰よりも早く会社に出社する。そして・・・
「おはようございます。今日もよろしくお願いします。」
と商品に挨拶をし頭を下げる。
なんて素敵なんだろう。
仕事やプライベートでお付き合いのある人が「よかった」と思えることをする。
見返りを求めない。
期待はしない。
初心に返る必要はない、初心は忘れない。
努力とは継続すること。
創意工夫はお金がかからない。
名言ばかりですぐにメモ。
こういう考え方の経営者になりたい。
人間になりたい。
いや、
なる!
怒ったりもしないし、人が嬉しいって思うことする。
そう誓った。
のに・・・
今日の工場内清掃の時間、私は以前教えられた通りに掃除をしていた。
「清掃入りまーす!」
この言葉を発すると、座り作業の人たちはみんな席を立って座っていた椅子を手に持ちその場を離れてくれるのだが・・・離れない受刑者がいた。
その人の名は
いっこく堂。
(似ているので勝手にあだ名をつけた。本物のいっこく堂さんごめんなさい)
私にこう言い放った。
「あ、俺のこと避けて掃除しろよ!」
いや、そこ邪魔なんだけど・・・できないんだけど。足ぶつかるんですけど!
と心で思いながらも・・・
「いや、掃除したいんで申し訳ないんですけど、ちょっとだけいいっすか?」
と言うと
「キェええええええ!なんで俺がどかなきゃいけねんだよ!なめてんのか!」
といきなりキレ出す。
そんなに大きくない小声で・・・
刑務官にバレないように・・・。
「わかりました。じゃあいいです。」
と伝えいっこく堂がその場に座ったまま掃除をする。
「チッ。ウゼェな、マジで」
小さな声で言ういっこく堂。
小さすぎて声が遅れて聞こえてくるようにも聞こえる。
ホウキがいっこく堂の足にぶつかるギリギリのところで掃除をする私。
嫌がらせの攻防戦。
結局勝敗はつかず・・・
無事に掃除が終わり、その場は何もなかったが、後から考えた時になぜムカついてしまったのか・・・。なぜ嫌がらせをしてしまったのか・・・。心から反省した。相手にしないのが正解だったのに・・・。怒らないって誓ったばかりなのに・・・。
できてないな・・・俺。
「堪えなさい」
亡くなった祖母が子供の頃に私によく言っていた言葉。家族のため、将来の自分のためにも決して怒りの感情を出してはならないと自分に言い聞かせた。
ってか、今日の朝食の肉じゃがうまっ!なんか味濃かったし。そして、夜ご飯のキャベツメンチサイズが大きくて、ジューシーでうまっ!!
月イチで出ないかな・・・。
あ
俺が
だんだん・・・
受刑者化してるよ・・・。
ご飯が楽しみになってきてる・・・。
全ては順調に進んでいる。人生の成功に向けて。
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