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ミュージカルスターの定義

Disneyブロードウェイミュージカル『ニュージーズ』日本初公演を観劇してきました。

🗞️東京公演(29公演)
日生劇場 2021年10月9日(土)~10月30日(土)
🗞️大阪公演(10公演)
梅田芸術劇場 2021年11月11日(木)~11月17日(水)

昨年2020年5月に予定されていた公演が新型コロナウイルスの感染拡大を受け全公演中止、一年半振り、オリジナルキャスト続投で悲願の再演に至ります。主演はジャニーズから我らがSixTONES 京本大我さん。

記憶のあるものから、かなり端折って書きますがネタバレを大いに含みますのでご注意ください。

東京公演初日、異様な緊張感に包まれながら開幕とともに流れるOverture、もちろんグランドミュージカルの醍醐味でもある生オーケストラの演奏。
トランペットの柔らかい、朝日を思わせる音色のソロから始まり、いよいよニューヨークの街が動き出す…ここだけで一年半待っていた観客にはグッとくるものがあったのではないでしょうか。

一幕目最初のジャック(京本大我)とクラッチー(松岡広大)の掛け合いから、今作のテーマであるSanta Feが始まるのですが、この一曲だけで如何にこの二人がお互いを信頼し合い、家族のような存在なのかが伝わってきます。まだ開始10分なのに。
二人の歌唱がとにかく素晴らしかった。
アイドルやってる時の京本さんは曲によって歌い方を変えますが、当たり前に今までのどの歌い方にも属さず、だからといってエリザベートやハルトとも違う。低音域が広がり音量も底上げされ、声自体が太くなっていました。あまりのレベルアップぶりに正直「こんな歌い方出来たんだ…」と思ったくらい。
そんな京本さんの歌声を、盤石な下パートで支え切る松岡さん。相手に合わせて歌い方音量のバランスを調整出来る職人なんだと思います。歌声に感情が乗っていて、まさに朝日に照らされてキラキラ輝くような仕上がり。いつかニューヨークを捨てて、サンタフェで人間らしく生きようという希望に満ちた歌。これが我々観客が聴く最初のSanta Feとなるので、このお二人が丁寧に歌い上げてくれた事に感謝です。

二人のパートから一転、他のニュージーズ達が加わり大迫力の群舞が始まりますが、これはオペラグラス放り出して俯瞰で観るべきですね。圧巻です。
男性キャストのみだからかダンスはダイナミック。でも位置取りや振りは繊細で正確、歌のユニゾンも綺麗。所々差し込まれるソロパートに個々の個性が滲み出ていて、最初は名前こそ覚えられないけれどニュージーズ達に愛着が湧きます。
特に初日はここの爆発力が凄まじく、音圧が振動となって伝わってきた事を思い出します。
男性ばかりの群舞の中、京本さんの存在感は消えないです。京本さん特有のリズム感やセンスの良さもあると思うけれど、気持ち半拍速く動いて余白で緩急をつけたり、正確に音ハメしてくるので、皆が下を向いていても一人だけ真っ先に顔がパッと前を向くので大変わかりやすいです。魅せ方が天才のそれ。

同じく群舞で言うと、ニュージーズ達が新聞卸値の値上げを受けてストライキを決起するシーンも圧倒的でした。ここら辺ですでに「え、この運動量と歌唱を1ヶ月ほぼ毎日やるの?」とか考えてました。
権力に対する闘志がバチバチに伝わってきます。ダンスの振り付け自体が拳を突きだしたり、闘いの姿勢を全面に出すものだった事もあり、所々で京本さんの姿勢の良さや型の美しさが目に留まります。完全に空手経験が活きてますね。個人的にはラインダンス?とまではいかないですが、全員で一列になって踊る部分が好きでした。ニュージーズ達、ダンスもそうですが演技の中でも事あるごとに肩を組むんです。この一致団結感はこういう細かい部分で徐々に刷り込まれていくんでしょうね。

一幕最後、ストライキが弾圧され、大勢の仲間が怪我を負い、家族同然のクラッチーは逮捕・感化院へ更迭されてしまう。ひとりぼっちで寝床の屋上に帰ってきたジャックによるSanta Feの歌唱が始まります。もう嫌だ辛い苦しい逃げたい…まだ17歳なんだよ、もうこんな状況から逃げたっていいじゃないか!と世の中の理不尽さに対する諦めと絶望的な気持ちを爆発させます。リーダーとしてこんな状況にしてしまったという自責の念に駆られ、膝から崩れ落ち悲しみに暮れる始~中盤、やはり憧れである南部サンタフェでの自由で穏やかな暮らしに対する渇望を圧倒的歌唱力で歌い上げる終盤。最後の得意な高音域から発せられるロングトーンはしばらく余韻が残るほどで、大変に素晴らしかったです。

(二幕感想は後日追記します。)


観劇後、
“ミュージカル俳優・京本大我”が確立した瞬間に立ち会えたと思いました。自分に厳しい京本さんの事だから、ちゃんと作り込んでくるんだろうなぁとは思っていましたが、想像を遥かに超えた仕上がりに感嘆するばかりです。観劇中「この人誰…」と何回思ったことか。今まで観てきたどの京本さんにも当てはまらないから、私には想像のしようがなかったんです。
初日カーテンコール後小池先生も「ここまでやれるとは思っていなかった」と仰っていましたね。最終日には「ミュージカル界や他の業界もリードしていく存在になる」とも。

京本さんご自身はインタビュー等で「グループではミュージカル担当ということになっているが、実際はそこまで場数を踏めていない」と仰っており、実際に実績不足は否めなかったのですが、今作で何段階も飛び級したという印象です。昨年の公演中止から20代の大事な一年半を損失してしてしまったと私は勝手に焦燥感に駆られていたのですが、観劇後そんな気持ちはどこかに飛んでいってしまいました。パンフレットの小池先生のお言葉『ミュージカル界のスターに王手をかけたと言っても過言ではない』、本当にその通りで、26歳にして芸能界での立ち位置を確立しつつある京本さんにはもう安心してついて行って良いと思います。

少し気が早いですが来年の読売演劇賞や菊田一夫演劇賞が楽しみにしつつ、また舞台で輝く姿が見れることを祈ります。

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