【AIエージェント解説シリーズ】ai16zを支えるElizaフレームワークとは?
はじめに
本シリーズでは、AIエージェントの動向、特にクリプト業界における活用事例を中心に、その最前線を追いかけている。前回の記事では、AIエージェントによって運営される初のベンチャーキャピタルファーム「ai16z」について、その概要や特徴を解説した。
今回は、「ai16z」を語る上で欠かせない、その心臓部とも言える「Eliza(エライザ)フレームワーク」に焦点を当てる。Elizaフレームワークとは一体何なのか?なぜこれほどまでに注目を集めているのか?その技術的な詳細や特徴、そして、その活用事例について深掘りしていく。
驚異的なGitHubのトレンド
Elizaフレームワークは、GitHub上で驚異的な勢いで成長しており、過去数年間で最も注目を集めているプロジェクトの一つとなっている。現在(2025年1月11日時点)、世界で2番目にトレンドとなっているGitHubリポジトリであり、およそ3000のフォーク(自分のリポジトリにコピーすること)と1万を超えるスターを獲得している。この圧倒的な支持が、Elizaフレームワークの注目度を物語っている。
さらに、注目すべきは、このトレンドがこの1,2ヶ月の短期間の間で起こっているという事実だ。特に12月に入ってからの伸び率はエグい。そして、毎日のようにソースコードがアップデートされており、凄まじい勢いで機能拡張がされている。
ちなみに、12月はGitHubトレンドのNo.1を取っている。
ai16z Elizaフレームワークの概要
ai16zのElizaフレームワークは、AIエージェントを開発するための強力なプラットフォームだ。このフレームワークは、開発者が独自のAIエージェントを容易に作成、展開、管理できるように設計されている。特にブロックチェーン技術を活用したアプリケーションに適しており、多種多様な機能を持つエージェントを構築するための基盤を提供している。
Elizaフレームワークの特徴
Elizaフレームワークの主な特徴は以下の通りだ。
高いカスタマイズ性: Elizaは、LLM(大規模言語モデル)の設定、各種ソーシャルメディアとの連携、プラグインの追加などを簡単に行うことができる。これにより、開発者は自身のニーズに合わせたAIエージェントを自由に作り上げることができる。
マルチ・エージェント: Elizaは、複数のAIエージェントが相互に連携し、協力してタスクを実行することを可能にする。これにより、より複雑なシステムや、複数のエージェントが連携して動作するようなアプリケーションの開発が可能になる。
メモリ機能: エージェントは過去の対話を記憶し、コンテキストを理解した上で、発言することができる。これは人間らしい振る舞いをさせる上で非常に重要になってくる。
容易なデプロイ: 開発したAIエージェントは、簡単に本番環境にデプロイできる。このため、迅速なプロトタイピングと実装が可能となり、アイデアを素早く形にすることができる。
Elizaフレームワークの魅力
Elizaフレームワーク自体には、他のエージェントフレームワークにない特別な機能があるわけではない。しかし、いくつかの重要な点において、他のフレームワークとは異なる価値を提供している。
多くのプラグイン:Elizaの大きな特徴の1つに、Twitter、Discord、Telegramなどの人気プラットフォームとの統合をサポートしていることが挙げられる。これにより、多岐にわたる用途で利用可能となっている。最近では、Twitter SpacesとElevenLabsによる音声合成技術を用いたElizaの統合が実現され、話題になった。
Twitter API不要のTwitterクライアント: Twitter APIを使わず、ユーザー名とパスワードを入力するだけで、ブラウザと同じようにTwitterにアクセスできる。これにより、Twitter APIにコストをかけずに、簡単にAIエージェントをTwitterと連携できるようになっているのが、大きな魅力である。
ただ、あまりにも簡単にTwitterと連携できてしまうため、クソリプを量産するAIエージェントもどきが増殖しているという事象が発生している。そして、以前自分が試したときも、まさにクソリプ量産機と化してしまった。。。
TypeScriptによる開発: 多くのWeb開発者やWeb3開発者が馴染みのあるTypeScript(JavaScript)で記述されている。よって、リポジトリをフォーク(コピー)して、自分のやりたいように、カスタマイズを容易に行えるという点も魅力で、これが、GitHubのトレンドになっている理由の一つである。
シンプルな設計: 複雑な抽象化を避け、非常にフラットな構造になっているため、新しいアクションを簡単に追加できるようになっている。なので、TypeScriptが理解できれば、ソースコードを追うのは比較的簡単になっている。
ブロックチェーンとの統合
上のプラグインのところでも挙げたが、Elizaフレームワークは、ブロックチェーン上でのトークン送信や取引を行うためのプラグインを提供している。現在、Solanaチェーンなどいくつかのブロックチェーンへのアクセスをサポートしており、Coinbaseなどの取引所との接続もサポートしている。
これにより、AIエージェントは実際のブロックチェーンネットワークと連携し、トークンの送信や管理を行うことができる。これは、クリプト業界におけるAIエージェントの可能性を大きく広げるものと言えるだろう。
TEEサポートによるAIエージェントの秘密保持
TEE(Trusted Execution Environment:信頼実行環境)とは、例えるなら、コンピュータの中にある「秘密の金庫」のようなものだ。この金庫の中では、データやプログラムが外部からの干渉を受けずに安全に実行される。
AIエージェントは、様々なデータを使って学習したり、動作したりする。これらのデータには、個人情報や機密情報が含まれる場合もある。
もし、AIエージェントがこれらのデータを安全に扱えなければ、情報漏洩や不正利用のリスクが高まってしまう。そこで、Elizaフレームワークでは、TEEをサポートすることで、AIエージェントが扱うデータのセキュリティとプライバシーを確保している。
特に、AIエージェント自身がブロックチェーン上での取引を行う場合、ウォレットの管理において、このようなセキュリティ面の強化は重要なポイントとなってくるだろう。
Elizaフレームワークの使い方
基本的な流れ
Elizaフレームワークを使ってAIエージェントを開発する基本的な流れは以下のようになる。
開発環境のセットアップ: まず、Node.jsやTypeScriptなどの必要なツールをインストールし、開発環境を整える。ここが一番つまづくポイントだと思うが、下で紹介しているYouTube動画を参考にしつつ、なんとか乗り越えて欲しい。
リポジトリのダウンロード: ElizaOSというリポジトリがあるので、そこからリポジトリを自分のローカル環境にクローン(コピー)する。
必要なライブラリのインストール: リポジトリをダウンロードしたら、リポジトリで必要となる各種ライブラリをインストールする必要がある。Eliza自体かなりのプラグインを含んでいるせいで、そのすべての関連ライブラリをインストールする必要があり、それなりに時間がかかる。そして、これが結構つまづきポイントで、環境によって結構色んなトラブルが起こる。自分が使うプラグインだけインストールして使うみたいな方式を導入してくれるとありがたいのだけど。。
エージェントの設計: 自身のAIエージェントの機能や性格を設計する。Elizaでは、エージェントの行動や応答を定義するための設定ファイル(JSON)を作成する。以下のサイトでも、その設定ファイルをUIで作成することができるようになっている。
ただ、UIで入力した情報を、単にJSONフォーマットで出力するだけなので、JSONが何か分かる人であれば、直接サンプルを参考にして、エディタでJSONファイルを作成した方が早いかも?
リポジトリでは、C3POとかトランプなどのキャラクターの設定がサンプルとして提供されているので、それを参考にして、自分のキャラクターの設定ファイルを作成するといいと思う。
https://github.com/elizaOS/eliza/tree/main/characters
プラグインの追加: 必要に応じて、Elizaのプラグインを追加して機能を拡張する。これにより、エージェントが特定のタスクを実行できるようになる。これは上級者向けというか、ガチでカスタマイズしたい人向けなので、とりあえずTwitterで発言させたいという人とかは、特にこの工程は不要である。
テストとデプロイ: 開発したエージェントをテストし、問題がなければ本番環境にデプロイする。これにより、実際のユーザーとのインタラクションを開始することができる。まぁとりあえず試すだけなら、自分のローカル環境で動かせばいいだけなので、どっかのサーバーにデプロイする必要はない。
オススメYouTube
Elizaでエージェントを動かすのに一番苦労するのは、環境設定だと思うが、ここでは、実演してくれてる参考動画を紹介しておく。英語が分からなくても、字幕をAIで日本語化するなり、画面を見てそれをそのまま真似するでもOKだと思うので、ぜひ参考にして欲しい。
まず、以下の2つの動画は英語だが、短くて最低限必要なことをカバーしているのでおすすめである。
X、Telegram、オンチェーン機能を備えたソーシャルAIエージェントを15分で構築する方法|完全チュートリアル
Elizaフレームワークを使って、個性を持ったAIエージェントを構築する|TypeScript完全チュートリアル
もし、超初心者で、一から知りたいという人は、以下のYouTubeがオススメ。開発者のShawが、初心者向けに一から解説している。なので、めっちゃ長いのだが、詳細欄にトピック毎のリンクがあるので、そこから興味あるところをつまみ食いするのが良いかと。
AI Agent Dev School 1 pt 1
Windows環境で実行するときの注意点
Windows環境で実行する場合、WSL(Windows Subsystem for Linux)環境をセットアップする必要がある。これが結構敷居を上げている気もするが、ここは頑張って乗り越えるしかない。
以下にオフィシャルのドキュメントがあるので、これを参考にするか、上のAI Agent Dev Schoolの動画の39:26時点からWSLセットアップについての解説があるので、それを観るといいと思う。
環境によっては、ライブラリのインストール中にエラーになったりするので、その時は上のセットアップガイドのTroubleshootingのところを見るといい。
もしくは、ai16zのDiscordに入って、質問してみてもいいかもしれない。
スタンフォード大学との提携
ここからはElizaフレームワークの今後の展開について取りあえげていきたいと思う。
Eliza Labs(ai16zの背後にある開発チーム)は、12月にスタンフォード大学の「Future of Digital Currency Initiative (FDCI)」との提携を発表した。この共同研究の狙いは、AIエージェントがWeb3やデジタル通貨システムにどのような影響を与えるかを詳細に調査することにある。
提携の目的と研究内容
この提携の目的は、AIエージェントがデジタル通貨ネットワーク内でどのように信頼を確立し、検証するかを研究することにある。さらに、以下の3つの主要な研究テーマに取り組む。
AIエージェントの信頼構築: Elizaフレームワークを用いて、AIエージェントがデジタル通貨ネットワーク内でどのように信頼を築き、その信頼を検証するかを研究する。つまりこれは、前回の記事で紹介したDaos.funでAI Marcがやろうとしていることにつながる。
マルチエージェント経済システム: 複数のAIエージェント達が経済的な文脈でどのように相互作用、つまり、コミュニティ内で協力するかを探求する。これは、今後AIエージェント達がメタバースの世界の住人となったときに、重要なポイントになってくるだろう。
分散型エージェントガバナンス: AIエージェントが、中央の管理者がいなくても、自律的に活動できるような仕組みを作るためのチャレンジで、いわばAIエージェントのDAOである。これにより、現在DAOが抱えている問題を解決できる可能性がある。
今回の提携により、スタンフォード大学内に「AI x Web3 Lab」が設立された。この研究施設は、AIとWeb3技術の融合を専門に研究する、初めての機関となる。これは、AIエージェントがWeb3の未来を大きく変える可能性を示唆する、重要な動きと言えるだろう。
拡大するElizaフレームワーク
前回の記事で紹介したai16zのAIエージェント以外にも、現在、様々なプロジェクトにて、ぞくぞくとElizaフレームワークとの連携が実現している。
以下のオフィシャルサイトで、現在提携しているプロジェクトや、Elizaフレームワークをベースに開発されたAIエージェントを参照できる。
ここでは、いくつかの興味深いプロジェクトについて紹介しておく。
ハッカソンの運営
これは、少し前に開催されたAIを使った自律分散システムをテーマとしたハッカソン(開発者向けのコンペティション)だが、これの面白いところは、このイベントの主催がAIエージェントで、審査員もAIエージェントというところ。それぞれの役割に必要なナレッジを与えてトレーニングしているということで、非常にチャレンジングな取り組みである。
メタバースへの統合
つい最近、HyperfyというオープンソースのWeb技術を用いたメタバースプロジェクトが、Elizaフレームワークとの統合を発表した。メタバースが流行らない理由として、メタバースの世界に入っても誰もいないから楽しくないというのがあると思うが、自律分散的にその世界に居住するAIエージェント(NPC)がいれば、もっと面白くなるはずである。人と話しているつもりが実がAIだったということが近い将来実現するに違いない。
このプロジェクトのすごいところは、UnityやUnreal Engineなどの高度なスキルを要求しない、Web技術(JavaScript)でこのメタバースの世界を実装できてしまうところにある。Elizaも同様の技術を使っており、さらに両方ともオープンソースということで、この2つのプロジェクトの相性は抜群なのである。Webサイトの代わりにメタバースの世界を作る、そんな世界線が間近に来ている。
ベンチャーキャピタルにおける投資判断への活用
つい最近発表されたばかりだが、ai16zはAnimoca Capitalと提携し、ElizaフレームワークのAIエージェントを用いて投資判断を行うプロジェクトを発表した。Animoca Capitalは、Web3に特化したゲーム・エンタメ企業であり、ベンチャーキャピタルとしても知られるAnimoca Brandsが新たに立ち上げたファンドだ。
この提携は、まさに前回の記事で紹介した、Daos.funにおけるAI Marcが目指していることを、現実世界で実現しようとする試みと言える。アニモカのような大手ベンチャーキャピタルが、AIエージェントによる投資判断の可能性に注目し、参入してきたという事実は、AIエージェントの潜在的な力を強く示唆している。
ゲームへの統合
こちらもつい先日の話だが、Elizaフレームワークが、Robloxプラットフォームとの統合されたというデモが公開された。これは、前述のメタバースへの統合と同様に、AIエージェントの活用範囲を広げる重要な動きだ。
この統合によって、ゲーム内のNPC(ノンプレイヤーキャラクター、ゲーム内の村人などのような存在)がAIエージェント化される可能性が開かれた。AIエージェント化されたNPCは、自律的に会話をし、考え、行動するようになるため、プレイヤーの行動によってゲームの展開が大きく変わることも予想される。
例えば、NPCが突然ブチギレて襲ってきたり、プレイヤーがNPCと恋に落ちるといった、ゲーム制作者が想定していなかった展開も起こりうる。特に、物語性が重視されるRPG(ロールプレイングゲーム)との相性が良いと思っている。AIエージェントが、ゲームの世界をより豊かに、そして予測不能なものにする未来が、すぐそこまで来ているのかもしれない。
また、フルオンチェーンのたまごっちみたいなゲームとも統合され、デモが公開されているが、これも新しいゲームの可能性を感じさせてくれる。今後、こういったゲームが続々と登場するかと思うと、非常に楽しみで仕方がない。
この他にも、様々な分野での提携やプロジェクトが発表されてきているが、長くなるので、今回はこの辺にしておくことにする。
まとめ
今回の記事では、この記事では、AIエージェント開発の最前線を行く「Elizaフレームワーク」を深く掘り下げてきた。Elizaフレームワークは、その高いカスタマイズ性、マルチエージェント機能、そして容易なデプロイによって、多くの開発者から支持を集め、GitHubでも驚異的な成長を遂げている。
Elizaの魅力は、TypeScriptによる開発の容易さ、シンプルな設計、そして様々なプラットフォームとの統合にある。Twitterなどのソーシャルメディア、ブロックチェーン、TEE(信頼実行環境)といった、現代のWeb3アプリケーションに必要な機能が揃っている。
活用事例も多岐にわたり、金融、メタバース、ゲームなど、様々な分野でAIエージェントの可能性を広げている。特に、大手ベンチャーキャピタルがAIエージェントによる投資判断に注目している事実は、そのポテンシャルを示す証左と言えるだろう。
もし、ai16zについて説明した第1弾をまだ読まれてない方は、そちらの記事も合わせて読んでいただくと、なぜこのElizaフレームワークが注目され、急速に広がっているのかが、より理解できると思うので、ぜひご一読頂ければと思う。
今後も、AIエージェントの最前線で何が起こっているかの動向をウォッチしてお伝えしていく予定なので、ぜひ、興味のある方は、このアカウントおよびXのアカウントをフォローして頂ければと思う。
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