068 もっともきれいな水
雲は多いけれどなんとか晴れた日曜日。
空をお腹いっぱい見たくて、港に行ってみました。
その日に行った港は近くに公園があって、いくつかの家族がいました。
鬼ごっこ?をしていたり、バドミントンをしていたり、カメラで写真を撮っていたり。
のんびりと和やかな午後です。
芝生はくすんだ緑色の中に少し茶色いものがまざっていて、秋らしくなっていました。
私はぺたんと座って足を伸ばし、両手を体の後ろについて思いっきり上を見ました。
空には雲がいくつか浮かんでいます。
おっきいのや小さいのや。もっこりしたものや薄くて空の青色が透けそうなものや。
どれも形を少しずつ変えながら、あるいは消えながら流れていきます。
視界が空だけになると周りの音は聞こえなくなってくるものですが、わりと近くで「うわぁ」という子どもの声が聞こえました。結構大きな声だったので、反射的に声のする方を見ました。
声の主は男の子で、お父さんらしき男性が、小走りで男の子に近寄ってきます。
男の子はどうやら目にごみが入ってしまったようで、おいおい泣いています。
お父さんが「目を洗おう」と言って男の子をなだめながら手を引いていきました。
私のすぐそばを通るとき、男の子が
「目からたくさん水が出るの!」
と言っていて、それに対してお父さんは
「大丈夫だよ。ごみを流そうとしてくれる、良い水だよ」
と答えていました。
ごみを流す良い水。
とっても素敵なことばだと思いました。
そういえば、涙は人間が排出するもので最もきれいなもの、となにかで読んだことがあるなぁ、と思いました。涙は目薬、とも。
例えばかなしいことやつらいことがあったとき、あるいはなにかに感動したとき、うんと涙を流すとすっきりすることがあります。実際にそれでなにかが解決するわけではなくても、涙をながすことで気持ちが落ち着き、また前に進んでいく気持ちが起こることもあります。
それは、涙が物理的なごみだけでなく、心のなかにわだかまっていたモノも流してくれるからなのでしょうね。
かなしいことやつらいこと。感動したこと。
それが私にも何度か起こりました。
そのときは感情大爆発なのですが、時間と涙がきちんと落ち着かせてくれたように思います。
ごみを流してくれる良い水。
最もきれいな水。
男の子の目に入ったごみがきれいに流れますように。
これから何かが起こっても、涙が守ってくれますように。
そんなことを思ったあと、もう一度空を見たら最初にいた雲たちはすっかり形を変え、あるいは流されてわずかな雲しか残っていませんでした。
空が高く感じて、少しだけくすんだようなブルーがとてもきれいで、せつなくなりました。目の奥に少しだけ涙の気配を感じました。
今、なにかにつらさを感じて悩んでいるわけではないのに。
かなしいことがあったわけでもない、ごみが目に入ったわけでもないのに。
この涙はどこからやってきたんでしょうね。
そのあと、きっと空色になったひとしずくの水がぽろりと流れるのを感じました。
今回も最後まで読んでくださって、ありがとうございました。