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介護小説① 「久しぶりの実家で見た現実」
「実家の庭がやばいことになっているから、草刈りをしないか?」
弟から1通のLINEが届いた。
正直あまり気乗りしなかった。
仕事や育児だけでも忙しいのに、実家の面倒まで見ていられないというのが本音だった。
でも弟だけに草刈りを任せるのも忍びないので、渋々ながら僕も実家に向かった。
・・・
その日は、朝8時半に弟と実家で待ち合わせた。
「草刈りの前に、ちょっと父さんと母さんの様子を見てこようか」と弟が言う。
僕の両親は2人そろって掃除が嫌いで、庭だけでなく家の中も荒れに荒れていた。
いわゆる「ゴミ屋敷」というやつだ。
僕はそんな実家の悲惨な姿を見るのが嫌で、めったに実家に立ち入らなかった。
でも、その日は弟も一緒だったので、嫌々ながら実家の中に入ってみた。
僕の目に飛び込んできたのは、想像以上に悲惨な光景だった。
何年も窓を開けてすらいなかった部屋はほこりっぽく、空気がよどんでいた。
机の上には飲みかけのペットボトルが何本も散らばり、ゴミが散乱していた。
足の踏み場もないほど、部屋中がものとゴミであふれかえっていた。
季節は秋。少し肌寒い日で僕は長袖のウィンドブレーカーを着ていた。
そんな中で、父は半袖Tシャツに短パンという格好で、扇風機にあたったままリビングで横になっていた。
その隣ではうつ病の母が、やせこけた顔でぐったりしていた。
「あれ・・・これはマジでやばいのでは・・・」
驚きのあまり固まっている僕を見て、弟が言う。
「まあ、やばい状態であることは間違いないけど、もうずっとこんなもんだよ」と平然としている。
弟は頻繁に実家に顔を出して様子を見に来てくれていた。
だから、両親と実家の悲惨な光景を前にしても特に何も感じようだった。
「そうか・・・」と僕は言い、弟と一緒に草刈りをした。
昼くらいまで草刈りをして一区切りついたところで、父と母に声をかけてから自分の家に戻った。
・・・
家に戻ってからも、父と母の様子があまりにもひどかったことが気になって仕方がなかった。
いつも様子を見てくれている弟が「こんなもんだよ」というのだから、大丈夫だろう。
そんなに気にする必要はないさ。
いやそうは言っても、あれは普通じゃない。
これまではなんとかなってきたかもしれないけど、さすがに何か手を打たないとまずいんじゃないか。
そんなことをぐるぐると考え、胸騒ぎをおさえることができなかった。
その日の夕方、僕はもう一度実家に両親の様子を見に行くことにした。
(続く)